村を離れて
塔での出来事から二日。
林帆は村長の家を訪れ、塔の結界を守ったことを報告した。村長は涙を流して喜び、村中で小さな宴が開かれた。
「本当にありがとう。これで安心して暮らせる」
「いいえ。こちらこそ、泊めていただいて」
宴の最中、村長がぽつりと教えてくれた。
「この村のさらに東、“霧の森”という場所がある。昔、星の神殿があったと言われている。しかし、誰も入った者は戻ってこない」
「星の神殿…」
林帆はすぐに興味を示した。
「行ってみたい。道を教えてくれませんか?」
「無理はしないでくれよ。ただし、どうしてもと言うなら、この地図を持っていきなさい」
村長から受け取った地図には、霧の森への道と、その先に神殿の跡が記されていた。
翌朝、早くに出発しようとした二人を見送りに、村人たちが集まった。
「気をつけて」
「何かあったら、いつでも戻ってきなさい」
林帆は軽く頭を下げ、ヨルの手を引いて村を後にした。
東へ向かう道は、次第に鬱蒼とした森へと変わっていく。木々は幹が太く、枝が絡み合い、日光がほとんど届かない。
「ここが霧の森か…」
確かに、足元からかすかな霧が立ち昇っている。息をすると、ひんやりとした湿り気を感じる。
「迷子にならないでね」
ヨルが月の護符を掲げると、護符がぼんやりと光り、正しい道を示した。
三十分ほど歩いたとき、突然、周囲の霧が濃くなった。視界は五メートルもない。
「林帆さん、なんか動いてる!」
ヨルの声に振り返ると、霧の中から低い唸り声。白い影が数匹、こちらをうかがっている。
「霧狼だ。普通の狼より獰猛で、霧の中で獲物を追い詰める」
狼たちが一斉に襲いかかる。林帆は星の短剣を抜き、素早く反撃する。一匹、二匹、三匹。
しかし、数が多い。四方から同時に飛びかかられる。
「ちっ…」
彼は杖を取り出し、星力を解放した。光の波が霧を吹き飛ばし、狼たちも吹き飛ぶ。
「はあ…はあ…」
「もう大丈夫?」
「ああ、一応な」
霧が少し晴れた隙に、彼はヨルの手を引いて走った。護符の光を頼りに、迷わず進む。
十分後、ようやく森を抜けた。目の前には、廃墟。石造りの神殿が半分崩れ、蔦に覆われている。
「ここが…星の神殿」
入り口には、朽ちた星の紋章。押すと、扉が音を立てて開いた。
中は広く、天井は高く、壁には無数の星の絵。中央に、星の形をした祭壇。その上に、一振りの槍。
銀色の槍。穂先には星の光がきらめいている。
「これも…星の武器か」
林帆が手に取ると、槍が震え、彼の声に応えるように光を放った。
『お前こそ、次の継承者か…』
声が聞こえた。女性の声。
「あなたは?」
『かつてこの神殿を守っていた者。私はもうすぐ消える。この槍を託す』
「どこへ行けばいい?」
『その槍が示す方角へ。真の星の力を求めて…』
声が消え、神殿の奥の壁が大きく開いた。そこには、新たな道。外へ続いている。
林帆は槍を背負い、ヨルと一緒にその道を歩き出した。
羅針盤は針をくるくる回している。これからは、槍が道を示してくれる。
「どこへ行くの?」
「さあ。でも、きっとまた新しい出会いがある」
二人の影が夕日に伸びる。第三の大陸での旅は、まだ始まったばかりだ。




