杖と書物
四階で手に入れた杖と書物。
林帆はまず書物を開いた。ページは黄ばみ、ところどころ虫に食われているが、大部分は読める。
『星力の杖の使い方――この杖は天の星と地の星を結ぶ。使い手は己の星力を杖に注ぎ、望む場所へ瞬間移動することができる。ただし、距離が長いほど体力を消耗する』
「瞬間移動…そんなことができるのか?」
「理論的には可能だ。ただし、お前の今の星力では数メートルが限界だろう」
老怪が冷静に分析する。
林帆は杖を手に取り、星の短剣を腰に差した。両方とも星の力を持つが、役割が違う。短剣は攻撃、杖は移動。
「試してみるか」
彼は杖を握りしめ、体内の星力を注いだ。杖が青白く輝き、周囲の空間が歪む。
次の瞬間――彼は部屋の反対側に立っていた。一歩も歩いていない。確かに移動した。
「すごい…!」
「三メートルか。まあ初心者にしては上出来だ」
ヨルが拍手する。「もう一回やって!」
「今はいい。体力を取っておかないと」
彼は書物を読み進めた。杖の他に、この塔に隠された秘密が記されている。
『この塔の地下には、星の力を増幅する結界がある。しかし、その結界を守る影鬼は夜になると力を増す』
「影鬼…村の人たちが言ってたやつか」
「昼間なら倒せるかもしれない。夜になる前に地下へ行くぞ」
林帆は杖と書物を収納指輪にしまい、ヨルを連れて階段を下りた。一階のホールにある隠し扉。以前は気づかなかったが、書物にはその場所が記されていた。
壁の一部を押すと、がらがらと音を立てて扉が開いた。中は暗い石段。下へ下へと続く。
「ロープを持ってきたほうがいいか?」
「いや、杖で何とかなる」
彼は杖に光を灯し、足元を照らしながら進んだ。五分ほど下りると、広い空間に出た。
そこは半円形の部屋。壁には無数の星の絵。床には巨大な魔法陣。中央に台座。その上に、黒い宝玉。
「あれが星力増幅の結界の要か」
近づこうとしたその時、背後で物音。振り返ると、真っ黒な影が壁から這い出してきた。人間の形をしているが、目は赤く輝いている。
「影鬼…!」
影鬼が襲いかかる。林帆は星の短剣で切りつけた。刃が触れた瞬間、影は悲鳴を上げて後退する。
「効くのか?」
「星の力は闇に弱い。だが、ここは地下。完全な闇に近い。早く片付けろ」
影鬼は三体。一体が林帆に飛びかかり、残り二体はヨルを狙う。
「ヨル、伏せろ!」
林帆は杖を掲げ、星力を解放した。杖から放たれた光の波が部屋中を満たす。影鬼たちは光に焼かれ、断末魔の叫びを上げて消えた。
「はあ…はあ…」
「終わった…?」
「ああ。これで結界は守られた」
林帆は台座に近づき、黒い宝玉を調べた。冷たいが、星の短剣と同じ素材のようだ。
「これを持っていくか?」
「置いておけ。これがなければ、この大陸の星力バランスが崩れる」
彼は宝玉に触れず、そのままにした。
地上に戻ると、外はもう暗くなりかけていた。影鬼の本体は倒したが、また夜になれば新たな影が湧くかもしれない。
「村に戻ろう。明日、また来る」
二人は急いで村への道を歩き出した。月が顔を出し、影を長く伸ばす。
羅針盤は変わらず東を指している。しかし針は微かに震えていた。まだ何かが残っている気配。
その夜、村の小屋で焚き火を囲みながら、林帆は杖の手入れをした。これからどこへ行くにしても、きっと役に立つだろう。
ヨルは疲れて先に眠っている。彼女の寝顔は穏やかで、少しだけ大人びて見えた。
「次の目的地は…まだ決めていない。でも、きっとまたどこかへ導かれる」
彼は星を見上げた。まるで答えをくれるように、一つの星が瞬いた。




