古の塔への道
村を出てから半日。
東へ続く道は次第に荒れ、草が生い茂り、倒木が行く手を阻む。林帆は星の短剣で枝を払いながら進む。ヨルはその後ろで、月の護符を握りしめている。
「ねえ、さっきから変な気配がする…」
「ああ。誰かに見られている」
彼は霊視を最大まで広げた。草むらの奥。二つの赤い目が光っている。しかし襲ってはこない。ただ観察しているだけ。
「影鬼かもしれないな。夜になるまで待つつもりだ」
「まだ昼なのに?」
「影鬼は完全な闇でないと動けない。日が暮れるまでには塔に着く」
林帆は歩調を速めた。羅針盤は東を示し、針は震えていない。まだ危険は遠い。
一時間後、ようやく古の塔が見えてきた。石造りの、高さは五階建てほど。壁には蔦が絡まり、窓は割れている。周囲の草は枯れ、不気味な静けさが漂う。
「ここか…」
近づくと、入り口の扉には大きな鍵がかかっていた。しかし鍵穴は朽ち果て、少し押しただけで扉は動いた。
ぎい…という重い音とともに、中が覗ける。暗い。しかし奥の方で、かすかな青白い光。
「行くぞ」
林帆は調和の剣を抜き、慎重に中へ踏み入れた。
中は広いホール。螺旋階段が上へ続いている。壁には無数の彫刻。かつてここで何かを研究していた修行者の姿。
一段上がるごとに、空気が重くなる。プレッシャー。
二階。いくつかの部屋。中を覗くと、壊れた机、本棚。本は全て焼かれ、読めない。
三階。行き止まりの壁に、大きな魔法陣。
「これは…」
林帆が手をかざすと、陣が光り、声が聞こえた。
「来るな。ここは危険だ」
「あなたは?」
「かつてこの塔に住んでいた者だ。私は失敗した。弟子を守れなかった」
声は震えている。
「どうしても先へ進みたいのなら、私の試練を受けろ。下の階にある三つの宝玉を集めよ。それぞれ罠と魔獣が守っている」
「分かった」
林帆は階下へ戻り、一階から探索を始めた。
最初の宝玉は、ホールの隠し扉の中。扉を開けると、中には巨大な蜘蛛。五本の脚。
「毒蜘蛛か…」
彼は氷の剣で足を凍らせ、動きを封じてから星の短剣でとどめを刺した。宝玉は蜘蛛の巣の中にあった。
二つ目は二階の壊れた本棚の裏。小さな部屋。中にはゴーレム。
鉄の体。しかし星の短剣の前では無意味だった。一刀で斬り裂き、宝玉を手に入れる。
三つ目は三階の魔法陣の裏。隠された階段を下りた先。そこには――誰もいなかった。
「なぜ?」
その時、背後から声。
「よく来た。これが最後の宝玉だ」
振り返ると、そこには一人の少年。銀髪、赤い目。手には宝玉。
「あなたは…」
「私はこの塔の最後の弟子。師匠が死んでから、ずっとここを守ってきた」
少年は宝玉を差し出した。
「これで試練は終わり。先へ進みなさい。師匠の遺産は四階にある」
「なぜこんなことを?」
「あなたを見たかった。自分以外の誰かが、ここに来るかどうか」
少年は微笑み、姿を消した。
林帆は三つの宝玉を魔法陣に嵌めた。陣が輝き、四階への階段が現れる。
彼はヨルの手を引き、ゆっくりと上がっていった。
四階には、一冊の書物と一振りの杖。そして壁一面の星空の絵。
『星の力を極めし者へ――この杖を使い、さらなる高みへ』
林帆は杖を手に取った。重みがあり、温かい。
これもまた、新しい力の始まりだった。




