新たなる大陸
砂浜に上がった二人は、まず周囲の様子を探った。
緑はどこまでも続き、背の高い木々が太陽の光を遮っている。空気は温かく、潮の香りと花の香りが混ざり合う。
「ここは…今までとは全然違う」
林帆は調和の剣を抜き、草をかき分けて進んだ。ヨルはその後ろをしっかりとついていく。
十分ほど歩いたとき、川のせせらぎが聞こえた。水は透き通り、底にはカラフルな小石。
「喉が渇いた…」ヨルが呟く。
「ちょっと待て。毒があるかもしれない」
彼は星の短剣を水に浸した。刃は光ったまま。変色しない。毒はなさそうだ。
「大丈夫だ。飲んでいい」
二人は川の水をすくって飲んだ。冷たくて、とても美味しい。
その時、茂みの向こうからガサガサという音。何かが近づいている。
林帆が身構えると、現れたのは一匹の鹿。しかし普通の鹿ではない。角は銀色に輝き、目は知性を帯びている。
「これは…霊獣か?」
「どうやらそうらしい。危害を加えなければ、襲っては来ないだろう」
老怪の言葉通り、鹿は二人を一瞥しただけで、悠然と去っていった。
「不思議な場所だ…」
「でも、きれい」
ヨルは目を輝かせている。
さらに奥へ進むと、木の幹に何かが彫られているのに気づいた。矢印と、簡単な文字。『村→』
「村があるのか?」
林帆は矢印に従って歩いた。三十分後、視界が開け、小さな集落が見えた。
丸太小屋が十数軒。煙突からは煙。畑には作物。平和な村だ。
「よそ者か?」
入り口で、羊の毛皮を着た男に呼び止められた。手には狩りの槍。
「はい。向こうの大陸から来ました。ここで少し休ませてもらえませんか?」
男は二人をじろじろと見たが、やがてうなずいた。
「いいだろう。ただし、村のルールは守れ。夜になったら外に出るな」
「なぜです?」
「この森には夜になると“影鬼”が出る。人間の影を奪って生きる化物だ」
林帆は思わずヨルを見た。彼女は怖がっているようだが、なんとか平静を保っている。
「分かりました。守ります」
男に案内され、空いている小屋に通された。中は簡素だが清潔。藁のベッドと古びた机。
「夕食は後で持ってくる。それまで休んでいなさい」
男が去った後、林帆はヨルと向き合った。
「影鬼…聞いたことがあるか?」
「いいえ。でも、この大陸にはまだまだ未知のものがたくさんあるんでしょうね」
「ああ。だからこそ、来た甲斐がある」
その夜、二人は村人たちと一緒に食事をした。素朴なシチューと黒パン。味は悪くない。
村長という老人が話しかけてきた。
「旅人よ、ここから東へ行くと“古の塔”がある。昔、強い修行者が住んでいたと言われている。ただし、今は誰も近づかない」
「なぜです?」
「呪われているからだ。入った者は二度と戻ってこない」
林帆は興味を持った。
「そこに行ってみたい」
「止めはしないが…気をつけなさい」
その夜、彼は眠れずに考えた。古の塔。それが次の目的地かもしれない。
窓の外では、月が明るく輝いている。
影鬼は今夜も現れないことを祈りつつ、彼は目を閉じた。
新しい大陸での最初の夜は、静かに更けていった。




