内なる闇
闇の中から、もう一人の自分が現れた。
姿形は同じ。しかし目は黒く濁り、口元には冷笑を浮かべている。
「お前…誰だ?」
「決まっているだろう。お前自身だ。お前がずっと押し殺してきた、弱さ、嫉妬、憎しみ――全ての負の感情」
もう一人の林帆が手を広げる。その掌から黒い靄が立ち昇る。
「ここまで強くなれたのは、それらがあったからだ。違うか?」
「違う。俺は…」
「強くなりたいと思ったのは、弱い自分が嫌だったから。誰かに認められたい、見下されたくない。それだけのことだ」
林帆は言葉を詰まらせた。確かに、最初はそうだった。復讐心のようなものさえあった。
「でも今は…」
「今も同じだ。ヨルを連れて歩くのも、自分のためだろう。彼女に感謝されて、自分を誇りたいだけだ」
ヨルがその言葉に驚き、林帆を見上げる。
「ち、違う…」
言いかけて、彼は気づいた。完全には否定できない。心のどこかで、そういう気持ちがあったことも確かだ。
「答えられないか。ならば、ここで終わりだ」
もう一人の林帆が黒い短剣を構えた。それは星の短剣と対になる、闇の武器。
「お前を倒して、俺が表に出る。そうすれば、もっと自由に生きられる」
黒い影が襲いかかる。林帆は思わず後退した。
その時、ヨルが前に飛び出した。
「やめて!」
彼女は両腕を広げ、林帆をかばうように立った。体は震えているが、目はしっかりと正面を見つめている。
「林帆さんは…自分のためにばかり動いているんじゃない。わたしが一番よく知ってる」
「お前のような小娘に何が分かる」
「分かるよ。だって、彼はわたしのために呪いを解いてくれた。見返りを求めずに」
ヨルの声は強かった。
「あなたは彼の弱さしか見ていない。でも彼には、もっとたくさんのいいところがあるんだ」
もう一人の林帆が一瞬たじろいだ。
その隙に、林帆は深呼吸をした。そうだ。自分には弱さもある。でもそれだけじゃない。
「ヨル、ありがとう」
彼は前に出て、黒い影と向き合った。
「お前の言う通りだ。俺には負の感情もある。それを認める。でも…」
星の短剣を握りしめ、光を放つ。
「それだけが俺じゃない。過去も、今も、これからも――全部ひっくるめて、俺なんだ」
黒い影が歪み、悲鳴を上げた。
「そんな…そんなはずは…」
光が闇を飲み込み、影は霧散していく。最後に残ったのは、小さな黒い石。吸魂鬼の核に似ているが、ずっと小さい。
林帆はそれを拾い上げた。今度は冷たくない。むしろ温かい。
「これも…俺の一部なんだな」
彼は石を握りしめ、胸のポケットにしまった。
周囲の闇が晴れ、そこは星の祭壇の中央だった。天井には無数の星、床には星座の絵。そして、中央に真の宝玉。
それは人ひとりが座れるほどの大きさの、輝く結晶。
「これが…星の玉座」
林帆が触れると、結晶が割れ、中から光の柱が立ち昇った。彼はその中に包まれ、意識が宇宙へと飛んでいく。
全ての星が見えた。過去、現在、未来。全ての可能性が、一瞬で流れ込む。
そして、彼は知った。
この世界は、もっと広い宇宙のほんの一部に過ぎないこと。自分はまだまだ成長できること。
光が収まったとき、彼は元の場所に立っていた。体の奥に、底知れない力が湧いているのを感じる。
「これが…新しい力」
彼は拳を握った。もう二度と、迷わない。




