星の短剣
氷の山脈を越えてから二日。
眼下には、これまでにない風景が広がっていた。黒い砂漠。砂粒は細かく、まるで炭の粉のよう。風が吹くたびに砂煙が舞い上がる。
「ここは…」
「星の砂漠と呼ばれる場所だ。古くは星が降り立った地と言われている」
老怪の声が久しぶりに響く。ここ数日、彼は静かに見守っていた。
林帆は腰に差した新しい短剣を抜いた。星の短剣。透明な刃に無数の星がきらめく。
「試しに使ってみるか」
彼は砂漠の中央に立つ黒い岩に向かい、短剣を振るった。
ざしゅっ。
岩はまるで紙でも切るように真っ二つになった。切断面からは星の光がこぼれ、しばらく消えなかった。
「すごい切れ味だ…」
「氷の剣とはまた違う。この短剣は“星の光そのもの”を刃にしている。防御を無視して斬ることができる」
「防御を無視?」
「ああ。どんなに硬い鎧でも、光を遮ることはできない。この短剣はその原理で相手を斬る」
林帆は感動しながらも、無理に頼らないようにしようと決めた。どんな武器にも限界はある。
その夜、黒い砂漠の真ん中で野宿した。焚き火を囲みながら、ヨルに短剣の握り方を教える。彼女は真剣に繰り返し練習していた。
「もう少し肘を下げて…そう、いい感じ」
何度も失敗しながらも、徐々に形になっていく。
突然、遠くで砂の鳴る音。何かが地下を移動している。
「来る!」
林帆が立ち上がると、砂の中から大きなサソリが飛び出した。体長は三メートル。尻尾の先からは毒の針。
「星の短剣、試し打ちだ!」
彼は正面から突進し、短剣でサソリの鎧を斬りつけた。触れた瞬間、刃が抵抗なく甲殻を切り裂く。サソリは悲鳴を上げて砂の中に逃げ込んだ。
「逃げたか…でも、効き目は十分だ」
「お見事」
老怪も褒めた。
それから三日間、彼らは黒い砂漠を歩き続けた。昼は灼熱、夜は氷点下。過酷な環境だが、星の短剣と氷の剣のおかげで何とか乗り切った。
砂漠の果てに、ようやく何かが見えてきた。それは石造りの大きな門。両脇には星と月の像。
「ここが…星の祭壇の入り口か」
門には古代文字が刻まれている。『星と月の試練を受ける者は、すべてを捨てて進め』
「すべてを捨てる…」
林帆は少し迷ったが、ヨルの顔を見て決心した。
「行こう」
彼は門を押し開けた。中は広い中庭。中央に星の台座。その上に、輝く宝玉。
「あれが…」
近づこうとした瞬間、周囲から白い靄が湧き出し、人影を形作った。それは銀髪の女戦士。手には星の槍。
「私は最後の守護者、セレナ。ここを通りたければ、私を倒せ」
林帆は氷の剣と星の短剣の二刀を構えた。
「望むところだ」




