氷の巨人
狂戦士たちを倒してから三日。
雪山はさらに険しくなり、両側を切り立った氷壁が覆う谷間を進んでいた。風は冷たく、息をするたびに肺が凍りそうだ。
「羅針盤は?」
「まだ大丈夫。光っていない」
林帆がヨルに答えながら先を進む。彼女は短剣を腰に差し、自分の足でしっかり歩いている。以前よりずっと頼もしい。
その時、前方の地面が大きく揺れた。
どん、どん、どん。
地響き。何か巨大なものが近づいている。
「隠れろ!」
林帆はヨルを岩陰に押し込み、自分は二本の剣を抜いた。
姿を現したのは、高さ五メートルはあろうかという氷の巨人。体は分厚い氷の装甲で覆われ、両手には巨大な氷塊のこぶし。目は青白く輝いている。
「氷のゴーレムだ。物理攻撃はほとんど通じない」
老怪の声が緊張する。
巨人がこぶしを振り下ろす。林帆は横に跳び、かわす。地面に大きな穴が開いた。
「くそっ…!」
彼は調和の剣に火の力を込めて巨人の足を斬りつけた。しかし、氷は少し溶けただけで、深手にはならない。
巨人がもう一方のこぶしで横薙ぎに払う。林帆は氷の剣で受け止めたが、吹き飛ばされて雪の山に激突する。
「がはっ!」
「林帆さん!」
ヨルが叫ぶが、彼はすぐに起き上がる。
「五行の火だけでは足りないか…」
彼は氷の剣を握り直した。この剣は氷の力を持つ。しかし相手も氷。同じ属性では効果が薄い。
「星の力を試せ」
老怪の言葉に、彼は氷の剣の柄に三力を集中させた。体内の三力循環が加速し、剣の中の星の光が強まる。
「これで…!」
巨人が再び襲いかかる。今度は両腕を振りかぶって。
林帆は正面から飛び込み、氷の剣を巨人の胸に突き刺した。刃が深々と沈み、星の光が巨人の体内で炸裂する。
ぎゃぎゃぎゃ――!
巨人の体にひび割れが走り、あっという間に砕け散った。氷の破片が周囲に飛び散る。
「はあ…はあ…」
林帆は膝をついた。三力と星の力を同時に使うのは、思った以上に体力を消耗する。
「大丈夫?」ヨルが駆け寄り、彼の腕を支える。
「平気…もう少し休めば」
巨人が砕けた場所に、小さな青い宝石が落ちていた。林帆はそれを拾い上げる。触れると冷たいが、体中に力がみなぎる感覚。
「氷核だ。これを使えば、氷の剣の力をさらに引き出せる」
彼は宝石を剣の柄に埋め込んだ。刃が一層強く輝く。
「これでまた一歩前進だ」
その夜、谷間の避難できる洞窟で二人は休んだ。ヨルは今日の戦いを思い出し、自分の無力さに唇を噛む。
「わたしも何かできるようになりたい」
「無理するな。まずは目の前のことから」
林帆は彼女に火起こしの道具を渡した。最初は何度も失敗したが、最後には小さな炎を灯せた。
「できた!」
「すごいじゃないか。少しずつ慣れていけ」
彼はそう言って、外の星空を見上げた。
羅針盤は変わらず北を指している。まだまだ遠いが、確実に進んでいる。
明日も歩こう。一歩ずつ、前に。




