氷剣の目覚め
神殿を出てから二日。
吹雪はようやく弱まり、青空が顔を覗かせた。林帆は背中の氷の剣を抜き、初めてじっくりと観察する。刃は透明で、内部の星の光は昼でもかすかに輝いている。
「試し切りをしてみるか」
彼は目の前にそびえる氷の柱に向かい、剣を振り下ろした。
ざしゅっ。
刃が氷に触れた瞬間、何の抵抗もなく柱は真っ二つに割れた。切断面からは冷気が立ち昇り、星の光がきらめく。
「すごい…切れ味が調和の剣よりずっと上だ」
「しかし、氷の力だけに頼ると五行のバランスを崩すぞ。調和の剣も併用しろ」
老怪の助言に、林帆はうなずいた。腰の調和の剣と背中の氷の剣。二刀の使い分けが必要だ。
その日から、彼は歩きながら二本の剣の切り替え練習を始めた。雪狼の死骸で試し、枯れ木で試し、さらには空中の雪の結晶を斬る訓練まで。
三日後、ようやく氷の剣の力もある程度コントロールできるようになった。
「よし、これなら実戦でも使える」
ヨルは黙って彼の練習を見ていたが、時折拍手を送る。
その夜、雪の洞窟で焚き火を囲んでいると、羅針盤が突然赤く光り出した。
「なにっ!」
林帆は立ち上がり、二本の剣を構える。ヨルを背後にかばう。
洞窟の外から、複数の足音。ざくざくと雪を踏む音。人間のものではない。
姿を現したのは、五人組の男たち。毛皮をまとい、手には斧や槍。そして、誰もが目を赤く光らせている。
「狂戦士だ。魔獣に憑かれた人間の一種」
老怪が説明する。彼らは理性を失い、襲ってくるもの全てを破壊する。
「お前たち、ここを通すわけにはいかない」
林帆が警告するが、狂戦士たちは答えず、一斉に襲いかかった。
先頭の大男が斧を振り上げる。林帆は調和の剣で受け止め、その隙に氷の剣で男の足を斬りつけた。
凍りつく。男の足が瞬間的に氷に覆われ、動けなくなる。
二人目が槍で突いてくる。林帆は後ろに跳び、氷の剣で槍の穂先を凍らせ、そのまま折った。
三人目、四人目、五人目。彼は二本の剣を状況に応じて使い分け、次々と無力化していく。
最後の一人が倒れたとき、林帆の肩には浅い傷が一つ。血はすぐに凍った。
「終わった…」
彼は息を整え、狂戦士たちの縛った。数時間もすれば理性が戻るだろう。そのまま放置しておく。
「怪我は?」ヨルが心配そうに駆け寄る。
「かすり傷だ。気にするな」
彼は剣を収め、羅針盤を確認した。赤い光は消え、再び北を指している。
「今夜はここで休もう。明日からまた進む」
その夜、林帆は初めてヨルに短剣の握り方を教えた。自分の身を守るために。
彼女はぎこちなく剣を握り、雪に向かって振る。最初はうまくいかないが、何度も繰り返すうちに少しずつ形になっていく。
「わたしも…いつかあなたのように戦えるようになりたい」
「きっとなれる。ゆっくりでいいから」
彼はそう言って、焚き火の炎を見つめた。
氷の剣は背中で静かに星の光を放っている。まだ未知の力が眠っているようだ。それを解き放つのは、もっと先の話。




