白銀の山道
国境を越えて三日。
雪はますます深くなり、足を取られるたびに体力を奪われる。ヨルは林帆の外套をしっかりと羽織り、彼の後ろを必死に追う。
「休もう」林帆が岩陰を指さす。風を避けられる小さな空間。
二人は腰を下ろし、干し肉と溶かした雪の水を口にする。ヨルはまだ多くは食べられないが、以前よりはずっと元気になった。
「羅針盤、何か変わったか?」
林帆はシグリッドから借りたコンパスを確認する。針は相変わらず北を指している。赤くは光っていない。今のところ危険はないようだ。
「そろそろ神殿まで半分くらいか…」
その時、遠くから低い唸り声が聞こえた。風の音ではない。生き物の声。
「何かいる」
林帆は短剣を握り、岩陰から顔を出す。視界の先、雪の丘にもうもうとした白い影が三つ。体長は二メートルほど。白い毛に覆われ、牙が長く突き出ている。
「雪狼だ。通常の狼より獰猛で、群れで行動する」
老怪の声が緊張を帯びる。三匹。以前の黒狼より大きい。しかし今の林帆なら――
「ヨル、ここに隠れていろ。絶対に動くな」
「でも…」
「大丈夫。すぐに終わる」
彼は雪の上に飛び出した。三匹の雪狼が一斉に振り返り、牙を剥く。
先頭の一匹が飛びかかる。林帆はかわしながら、調和の剣で横腹を切りつけた。五行の火の力を込めた刃は、分厚い毛皮を簡単に裂く。
一匹目が倒れる。残り二匹は同時に左右から襲いかかる。
林帆は素早く後退し、土の力で一時的な壁を作る。一匹が壁に衝突してよろめいた隙に、短剣を振り抜く。二匹目。
最後の一匹は逃げ出そうとしたが、林帆は追いすがって背中からとどめを刺した。
「はあ…はあ…」
三匹、全て片付けた。雪の上に血が広がるが、すぐに凍り始める。
「見事なものだ。以前なら三匹同時は厳しかったろう」
「少しは強くなれたみたいだ」
林帆は雪狼の牙を収穫し、ヨルのところへ戻った。
「終わったよ。さあ行こう」
ヨルは青ざめた顔でうなずいた。彼女にとっては初めての実戦の光景。少し怖かっただろう。
「すぐに慣れる。この世界はこういう場所だから」
彼はそっと彼女の頭を撫で、歩き出した。
その夜、雪の洞窟を宿代わりに、二人は焚き火を囲んだ。
「林帆さんは、なぜそこまで強くなりたいの?」
ヨルの何気ない問い。林帆は少し考えて答えた。
「最初はただ生きるためだった。でも今は…もっと広い世界を見たいから。誰かに守られるだけの自分じゃ嫌だから」
「わたしも…強くなりたい」
ヨルが拳を握りしめる。
「誰かの役に立てるように」
林帆は微笑んだ。そして彼女の肩をポンと叩く。
「一緒に頑張ろう」
洞窟の外では雪が静かに降り続けている。
羅針盤は変わらず北を指していた。あと五日。ついに神殿は近い。




