占星の塔
黒衣の魔術師が去った後、林帆はヨルを連れて塔の中へ入った。
中は思ったより広く、螺旋階段が天井高くまで続いている。壁には一面に星空の壁画。所々に銀色の鉱石が埋め込まれ、かすかに光を放っている。
「ここは…」
「占星の塔。昔、修行者たちが星の動きを観測していた場所だ」
老怪の声が響く。ヨルは驚いたように辺りを見回すが、不思議そうなだけで怖がってはいない。
階段を上ること十分。ようやく最上階に辿り着いた。
そこには大きな天体望遠鏡のような装置があった。青銅製で、ところどころ錆びているが、まだ使えそうだ。そしてその脇に、一冊の分厚い日誌と、小さな星型のペンダント。
「これは…」
林帆が日誌を開くと、古い文字でびっしりと記されている。『星の運行と三力の関係』――内容は難解だが、一部に彼が知っている知識と共通するものがある。
『五行は地の力、三力は人の力、そして星々は天の力。この三つが揃って初めて、万物の理を極めることができる』
「天の力…星か」
彼はペンダントを手に取った。冷たい金属だが、握るとかすかに脈を打つように震える。
「これを使って、天の力を借りることができるかもしれない」
「しかし、その使い方が分からないと意味がない」
老怪も首をかしげる。そんな時、ヨルが望遠鏡を覗き込んだ。
「あの…ここから星がよく見えます」
林帆も覗いてみる。確かに、肉眼では見えない小さな星まではっきりと見える。そして、その星々の間に、かすかな線が引かれているように見えた。
「これは…霊気の線? いや、もっと別の何か」
彼は日誌を読み進めた。『天の力は星の配置によって変わる。特定の日に特定の場所で、その力を地上に引き寄せることができる』
「特定の日…」
林帆は現在の星の位置を確認した。日誌にある図と比べると、三日後が最も近いタイミングらしい。
「ここで三日待つか」
その間、彼はヨルに簡単な自己防衛の術を教えた。体が弱っているが、少なくとも危険を察知して逃げられる程度には。
三日目の夜、塔の最上階から星が最も輝いて見えた。
林帆はペンダントを握り、三力を回した。するとペンダントが星の光を吸い取り、彼の体内に流し込む。
「これは…」
体が軽くなる。視界がさらに広がり、今まで見えなかった霊気の流れまではっきりと見える。
「天の力が、お前の三力を一段階引き上げた」
老怪が驚いたように言う。「こんな短期間でここまで来るとは…」
林帆はペンダントを首から下げた。これがあれば、さらに強くなれる。
翌朝、彼とヨルは塔を後にする。
「これからどこへ行くの?」ヨルが尋ねる。
「北へ。この世界の果てまで」
ヨルは少し迷ったが、彼の後を追った。
「わたしも連れて行って。もう一人は嫌なの」
林帆は少し驚いたが、うなずいた。
「ただし、無理はするな。辛くなったらすぐに言え」
「うん」
二人の影が朝日に伸びる。まだ見ぬ世界へ向かって、新しい旅が始まろうとしていた。




