黒衣の魔術師
風が止んだ。
林帆と黒衣の男が向き合う。塔の影が長く伸び、周囲の空気が張り詰める。
「お前のような小物が、よくここまで来たものだ」
男の口元に冷笑が浮かぶ。「しかし、それまでだ」
杖を振ると、地面から無数の黒い蔦が生え、林帆の足に絡みつく。
「ぐっ…!」
彼は調和の剣で蔦を断ち切る。五行の金の力を込めた刃は、闇を裂くように鋭い。
「おや? なかなかやる」
男が次の呪文を唱える。今度は上空から黒い雨。一筋一筋が針のように鋭い。
林帆は素早く後退し、五行の土の力で一時的な壁を作る。黒い針は壁に突き刺さるが、届かない。
「受け身ばかりでは勝てないぞ!」
男が叫び、直接杖で打ち込んできた。林帆は短剣で受け止める。ギイインという金属音。力は互角。
「なぜ…なぜお前のような雑魚が俺と同等の力を…!」
「それはお前が闇に頼りすぎているからだ」
林帆は一気に間合いを詰め、五行の火の力を短剣に込めて横薙ぎに振るった。
男は杖で防ぐが、炎が杖に燃え移る。黒い石が嫌な悲鳴を上げた。
「この…!」
男が後退しながら、手にした黒い石を林帆に向けて掲げる。次の瞬間、林帆の体が急に重くなった。まるで全身が鉛になったかのよう。
「この石は…重さの呪い…!」
「そうだ。これでお前は一歩も動けまい」
男がゆっくりと近づき、とどめを刺そうとする。
その時、地面に横たわっていたヨルが突然起き上がった。
「や…めろ…」
彼女のかすかな声。しかしその両手から、黒い靄が放たれる。それは男の手にある黒い石に吸い込まれた。
「なにっ!」
石が揺れ、ひび割れた。重さの呪いが解ける。
林帆はその隙に全力で飛び込んだ。調和の剣に五色の光を集め、男の杖を真っ二つに斬る。
「終わりだ!」
さらに、刃を男の喉元に突きつける。
男は地面に崩れ落ち、悔しそうに林帆を睨みつけた。
「なぜ…なぜお前は負けない…」
「負けない理由があるからだ」
林帆は男の懐から黒い石を取り上げた。石は鈍く光っているが、もうそれ以上の力は感じられない。
「この呪いをどうやって解くか教えろ」
「教えると思っているのか?」
「教えなければ、この石を粉々にする」
短剣で石を削ると、男の顔が歪む。
「…分かった。教えてやる。ただし、見逃せ」
「それでいい」
男が解呪の方法を呪文とともに伝える。林帆はそれを頭に刻み込んだ。
「さあ、消えろ。二度と俺の前に現れるな」
男はよろよろと立ち上がり、荒野の彼方へ消えていった。
林帆はヨルのところに駆け寄り、早速解呪を始めた。
黒い石を両手で挟み、五行の力を順番に流す。火、水、木、金、土――五つの光が石を包み、ヨルの体内の黒い靄を吸い出し始める。
「うっ…」
ヨルが苦しそうに身をよじる。しかし靄は確実に減っていく。
十分後、最後の靄が石に吸い取られた。ヨルの目が、普通の黒い瞳に戻っている。
「終わった…」
林帆は力尽きてその場に座り込んだ。
「ありがとう…林帆さん」
ヨルが初めて、はっきりと微笑んだ。
空には星が出ていた。長い一日が終わろうとしている。
塔の中には、まだ何があるのか分からない。しかし今はただ、この静かな夜に身を委ねたかった。




