闇の根源を求めて
治療から三日。
少女の体内の黒い靄はようやく四割ほどまで減った。彼女は日に日に意識を取り戻し、今では簡単な会話ができるまでになっている。
「お前の名前は?」
「…ヨルです」
「ヨル…夜か。よく似合う」
少女は少しだけ口元を緩めた。まだ笑顔とまではいかないが、無表情よりはずっとましだ。
「誰がお前に呪いをかけたのか、覚えているか?」
ヨルはうつむき、しばらく沈黙した。やがて小さな声で話し始める。
「黒いローブの男…フードを深くかぶっていて、顔は見えなかった。でも、手には杖。杖の先に、黒い石が付いていた」
「黒い石…」
林帆は収納指輪から吸魂鬼の核を取り出した。黒い石。ヨルの目が見開かれる。
「それ…それと同じ匂いがする」
「どうやら繋がっているようだな」
老怪が言う。「あの男は、この石を使って吸魂鬼を生み出しているのかもしれん」
林帆は拳を握りしめた。であれば、彼を放っておくわけにはいかない。
「ヨル、その男がどこへ行ったか分かるか?」
「北…北の方角へ向かっていた。何かの塔を探しているって言っていた」
「塔?」
林帆は古地図を広げた。この辺りで塔と言えば、かつて修行者が使っていた「占星の塔」が一つだけ。地図の北端、荒野の果てに記されている。
「そこしかないな」
彼はすぐに出発の準備を始めた。ヨルはまだ歩ける状態ではないが、置いて行くわけにもいかない。
「宿の女将さんに頼んで、馬車を手配してもらおう」
その日、林帆は幌馬車を一台買い取り、ヨルを乗せて北へ向かった。馬は年老いているが、しっかりと歩く。
道中、ヨルは時折苦しそうにうめいた。黒い靄がまだ体内で暴れているのだ。林帆は彼女の手を握り、火の力を送ってなだめる。
「辛いなら無理するな。少しずつでいい」
「ありがとう…林帆さん」
彼女が初めて、誰かの名前を呼んだ。林帆は少し照れくさくて、うつむいた。
荒野を二日走ると、遠くに塔の影が見えてきた。石造りの、古びた塔。周囲には何の建物もない。
「ここか…」
馬車を降り、ヨルを背負って近づく。塔の入り口には、黒いローブの男が立っていた。
「よく来た」
男の声は低く、響く。
「待っていたよ、三力同源の使い手」
「お前が…ヨルに呪いをかけたのか?」
「ああ。あれは餌だ。お前をおびき寄せるために」
男が杖を掲げる。先端の黒い石が不気味に輝いた。
「さあ、その玉を寄越せ。無駄な抵抗はするな」
林帆はヨルをそっと地面に下ろし、調和の剣を抜いた。
「やれるもなら、やってみろ」
風が吹き荒れ、二人の間を砂塵が舞い上がる。
決闘の時が来た。




