呪いの村
砦の町を出てから二日。
林帆は小さな村に辿り着いた。地図には載っていない、十数軒の家が点在するだけの寒村。畑は枯れ、井戸の水は濁っている。空気は重く、なぜか陰気な雰囲気が漂う。
「どなたかいますか?」
彼が声をかけると、一軒の家の戸が少し開き、老いた男が顔を出した。目の下に深い隈。痩せ細り、皮膚は青白い。
「旅の人か…ここは止まらないほうがいい。呪いがかかっている」
「呪い?」
老男は震える声で語った。
「三ヶ月前から、村人が次々と倒れるようになった。最初はただの熱。しかし十日もすると、体が腐り始める…。もう七人も死んだ」
林帆は霊視で村全体を観察した。井戸の底から、かすかな紫色の霊気が立ち昇っている。毒だ。
「井戸の水を使っていますか?」
「それしかないんだ。川までは遠い」
彼は井戸の縁に近づき、水をすくった。紫色に濁っている。嗅ぐと甘ったるい匂い。
「これは腐霊草の毒に似ている…」
「井戸の底に何かがあるんだろう。下りてみるか?」
林帆は村人たちにロープを借り、井戸に吊り下ろしてもらった。深さは十メートルほど。底に着くと、足元にぬめった何かが広がっている。
霊視で探ると、井戸の壁の一部が薄くなっている。その向こうに空間。
彼は短剣で壁を削り、穴を広げた。中には小さな空洞。そこに、一株の紫色のキノコが生えていた。
「腐霊茸だ。腐霊草の変種。しかもこんなに大きいのは珍しい」
老怪が説明する。「これの胞子が井戸の水に混ざり、毒を撒き散らしている」
林帆はキノコを根元から引き抜き、収納指輪にしまった。代わりに、浄化の力を持つ白い石――以前湖で拾った霊河石の一種――を井戸の底に埋める。
上がってくると、彼は村人たちに指示した。
「井戸の水を全部汲み出して、新しい水が溜まるまで待ってください。三日もすれば、毒は消えます」
「本当か…?」
「約束はできませんが、やるだけの価値はあります」
その夜、彼は村の小さな神社に泊めてもらった。床に陣を描き、腐霊茸を布の上に置く。
「これを使えば、さらに血脈が強化できるかもしれない」
「だが毒も強い。これまでより慎重になれ」
翌朝、村の井戸の水が以前より澄んでいるのを確認して、彼は村を後にする。村人たちは感謝の言葉と、干し肉を握らせてくれた。
「助けてくれてありがとう。神様の加護があらんことを」
林帆は軽く頭を下げ、再び北への道を歩き出した。
背中の布袋には紫色のキノコ。毒と薬は紙一重。それを己の力に変えるのが、自分の道なのだ。




