継承者の目覚め
意識が戻ったとき、林帆は自分が床に倒れているのに気づいた。
体は鉛のように重い。しかし頭の中は驚くほどクリアだった。五つの玉片が一つになった瞬間、膨大な知識が流れ込んできたのだ。
『三力同源――それは力の集合ではない。全てを結ぶ“道”そのものである』
彼はゆっくりと起き上がった。手の中の玉はもう光を失い、ただの石のように見える。しかし触れただけで、全身の気脈が共鳴する。
「これが…完成形か」
「おめでとう。これでお前は正式な継承者だ」
老怪の声も感慨深げだ。
その時、広間の上から足音が聞こえた。複数ではない。一人。
「まさか…」
林帆が階段を見上げると、青いローブの男が立っていた。傷だらけで、左腕を押さえている。
「よくも…よくも俺の何年もの計画を…!」
男の目は血走り、正気を失っている。どうやら湖の結界で押し戻された時、かなりの怪我を負ったらしい。
「玉を寄越せ。さもなくば…」
「もう遅い。これは俺のものだ」
林帆は短剣を抜いた。今の自分なら、この男と真正面から渡り合える気がする。
男が飛びかかってくる。風の刃ではなく、直接の斬りつけ。
林帆は調和の剣で受け止めた。ガンッという鋭い金属音。以前なら弾き飛ばされていたはずが、今は互角だ。
「なにっ!」
男が驚く。その隙に、林帆は五行の力を短剣に込めた。火、水、木、金、土。五つの力が順番に刃を走る。
「これが…本当の三力同源だ!」
一閃。
男の持つ剣が真っ二つに折れた。同時に、男の体が後ろに吹き飛ぶ。
「なぜ…なぜだ…十年も探し続けたのに…」
男は崩れ落ち、涙を流した。
林帆は短剣を収めた。とどめを刺す気にはなれない。
「もういい。ここから出ていけ。二度と俺の前に現れるな」
男は何も言わず、よろよろと立ち上がり、階段を上っていった。
その後、林帆は広間の壁に刻まれた全ての文字を書き写した。この知識は、自分だけのものにしてはいけない。いつか誰かの役に立つかもしれない。
神殿を出ると、外はもう夜だった。沼には満月が映り、不思議と美しい。
「さて、次はどこへ行く?」
老怪の問いに、林帆は小さく笑った。
「まずは小屋に戻る。それから…この世界の本当の姿を見に行くんだ」
彼は北の空を見上げた。そこには、幾つもの星がまたたいている。
その星の一つ一つが、自分の知らない世界なのだろう。
歩き出そう。まだまだ道は遠い。




