五行の神殿
扉が開ききったとき、中から乾いた風が吹き出した。何百年も閉ざされていた空気だ。
林帆は短剣を構え、慎重に足を踏み入れた。
中は広い通路だった。壁には無数のランプが並び、青白い炎を灯している。床には一枚一枚に模様が彫られた石版。
「結界はまだ生きている…」
一歩進むごとに、かすかなプレッシャーを感じる。体内の三力循環が自動的に速まった。
通路を抜けると、そこは円形の広間だった。天井は高く、中央に五本の石柱。それぞれに火、水、木、金、土の印。
「ここが…五行の間か」
彼が中央に歩み寄ったとき、五本の石柱が同時に輝き出した。それぞれから何かが飛び出してくる。
火の柱からは炎の玉。水の柱からは氷の針。木の柱からは蔦の鞭。金の柱からは金属の刃。土の柱からは石の拳。
五つの攻撃が、一斉に林帆に向かって放たれた。
「ぐっ!」
彼は調和の剣を振るい、炎の玉を斬り裂き、金属の刃を弾く。しかし氷の針が腕をかすめ、蔦の鞭が足に絡みつく。
一瞬の隙に、石の拳が腹に直撃した。
「がはっ!」
数歩後ろに吹き飛ばされ、壁に背中を打ちつける。
「これは…五行そのものの攻撃か」
老怪が叫ぶ。「それぞれの柱に対応する力で返せ!火には水、水には土、木には金、金には火、土には木だ!」
林帆はすぐに体勢を立て直した。まず足に絡む蔦(木)を、金の力を込めた短剣で断ち切る。
次に、再び飛来する炎の玉(火)に、水の霊力を込めた掌底を叩き込む。
シュウ…玉が霧散した。
氷の針(水)には土の力で防ぐ。手のひらから砂のような粒子を放ち、針を砕く。
金属の刃(金)には火の力。灼熱の一撃で刃を溶かす。
最後の石の拳(土)には木の力。蔦の鞭を拳に絡め、動きを封じてから粉砕する。
五つの攻撃を全て打ち消したとき、広間の中央に新たな階段が現れた。
「はあ…はあ…これで終わりか?」
「いや、まだ最深部がある」
階段を下りると、そこは小さな部屋だった。壁一面に古代文字。中央の台座に、五つ目の玉片が浮かんでいる。
しかし、その周囲には半透明の障壁。触れれば弾き返される。
「これが最後の結界か…」
彼は「結界破りの術」をもう一度使おうとしたが、湖の時と違い、障壁はびくともしない。
『五行の全てを理解せし者のみ、この扉は開かれる』
壁の文字を読み解くと、そう記されていた。
「五行の全て…つまり、それぞれの力を自在に操れないと駄目なのか」
林帆はその場に座り込んだ。ここで突破しなければ、五つ目の玉片は手に入らない。
彼は呼吸を整え、まず火の力を極めることにした。炎の形をイメージし、それを掌に凝縮する。
失敗するたびに熱さで手を火傷した。しかし、何度も何度も繰り返す。
三日後、掌の上に小さな炎の玉を作れるようになった。
次は水。氷の針を掌の上に。
これもまた難しい。何度も指を凍傷にしたが、五日後には形になった。
木、金、土。それぞれを習得するのに、それぞれ三日から五日。
一ヶ月が過ぎた頃、彼は五行の全てを掌の上に同時に浮かべられるようになった。
五つの力が、手のひらで調和している。
「これで…」
彼は両手を障壁にかざし、五行の力を順番に注いだ。
ひび割れが入る。さらに一押し。
パリン。
障壁がガラスのように砕け散った。
林帆は台座の玉片を手に取った。五つ目。これで全てだ。
五つの破片が一つに集まり、丸い玉となった。その瞬間、彼の脳裏に膨大な情報が流れ込んでくる。
『三力同源・完成編。五行を操り、三力を極め、万物と一つとなる道――』
林帆は意識が遠のくのを感じながら、その全てを自分のものとした。




