気脈の拡張
あの青いローブの男が去ってから五日。
林帆はその間、ひたすら気脈の拡張に専念した。日記の記述によれば、気脈を六本以上持てば、三力循環の速度と安定性が飛躍的に上がるという。
「四本目…行けるか?」
彼は胸の中心から背中へ伸びる細い気脈に、闘気をゆっくりと流し込んだ。最初は抵抗があったが、三日目の朝、突然すんなりと通り始めた。
「よし、これで四本」
さらに、左腕へ伸びるもう一本。これも五日程で開通。
「五本…ここからが本番だ」
日記には『五本目以降は痛みが倍増する』とある。覚悟の上で、彼は右足へ続く気脈に霊力を送り込んだ。
びりっ。
全身に電気が走るような衝撃。思わず歯を食いしばる。
しかし、止めない。十日、二十日、三十日――
一ヶ月が過ぎた頃、ようやく六本目の気脈が開通した。痛みはまだあるが、以前よりずっと楽になっている。
「六本。これで三力の経路を二セット確保できる」
試しに、一本目と二本目に闘気、三本目と四本目に霊力、五本目と六本目に血脈の熱を流し込む。
三力が、よりスムーズに、より強く回り始めた。循環が自動的に加速し、体中が温かくなる。
「これなら…短剣に込める霊力も倍になる」
林帆は調和の剣を握り、これまでより二倍の霊力を注いだ。刃が眩しいほどに輝き、手にしただけで周囲の空気が震える。
その時、遠くからかすかな悲鳴が聞こえた。
「何だ?」
彼は小屋を出て、霊視を最大に広げた。東の方角、あの湖の近く。二つの人影。一つは青いローブの男。もう一つは――傷ついた獣人。
男は獣人に何かを問いただしているようだ。獣人は首を振る。次の瞬間、男の手が光り、獣人は動かなくなった。
林帆は息を呑んだ。あの男は、簡単に命を奪える。しかも迷いなく。
「近づくな」老怪が警告する。「あの男は、お前とは次元が違う」
しかし、林帆の目は男の腰に釘付けだった。そこに、革袋。その口から、かすかに青白い光が漏れている。
玉片の破片だ。あの男も持っている。
「奴も…探しているのか?」
「おそらくな。しかし、今は引け。お前にはまだ勝ち目がない」
林帆は歯を食いしばり、その場を離れた。小屋に戻る道すがら、手が震えていた。恐怖か、それとも怒りか。
その夜、彼は日記を開き、気脈の拡張をさらに進める方法を調べた。もっと速く、もっと強くならねば。あの男に奪われる前に、自分が先に玉片の秘密を解き明かす。
「七本目…ここを開けば、三力の循環がさらに安定する」
翌日から、彼は睡眠時間を削って修行に没頭した。食事も最小限。全ての時間を気脈の拡張に費やす。
二十五日後、七本目の気脈が開いた。さらに四十日後、八本目。
八本の気脈から放たれる三力は、まるで暴れ川のように勢いよく循環する。短剣に込める霊力も最初の十倍以上になった。
「これなら…少なくとも逃げられる」
林帆は初めて、あの青い男と対峙するかもしれない覚悟を決めた。しかし、まだ無謀はしない。まずはもっと情報を集める。
彼は古地図と日記を手に、次の目的地を探し始めた。




