三つ目の欠片
獣人のボスから奪った三つ目の玉片の破片。
林帆はそれを慎重に、既存の二つの破片と合わせた。かちり――まるで最初からそうだったかのように、三つは完璧にひとつに収まった。
今や玉片は、掌の半分ほどの大きさになっている。表面にはこれまでになかったほど細かい文字が浮かび上がった。
『三力同源、ここに完成す。ただし、これを極めるには“場”を必要とす』
「場…?どういう意味だ?」
林帆が問うと、老怪も考え込んだ。「おそらく、特殊な環境のことだ。例えば、あの湖の底。あるいは、井戸の下の空洞」
彼はすぐにあの井戸のことを思い出した。井戸の底から吹き上がる冷たい風。古い書物に書かれていた地下通路。
「行ってみるか」
「まだ危険だ。しかし、この玉片が示すなら、運命的な何かがあるのかもしれん」
翌朝、林帆は準備を整えた。短剣に霊力を込める練習を重ね、凝血丹を腰に当たり前に携帯する。黒曜鉄鉱で作った簡易な投げナイフも三本。
井戸の蓋を開け、下を覗き込む。相変わらず暗い。しかし霊視を使うと、底から複数の霊気の線が立ち昇っているのが見える。
「ロープを固定する」
彼は太いつるを何本も編み合わせたロープを井戸の縁に結び、ゆっくりと降り始めた。
五分ほどで底に着く。足元はぬかるみ、冷たい水が膝まで浸かっている。そして、井戸の壁の一部が大きく崩れ、その向こうに暗い空間が広がっていた。
「ここだ」
林帆は短剣を構え、慎重にその隙間をくぐった。
そこは自然の洞窟ではなく、人が掘ったような通路だった。天井はアーチ状に削られ、壁にはかすかに文字のようなものが刻まれている。
「古代の施設か…」
一歩、また一歩。霊視を最大にして進む。
十分ほど歩いたとき、行き止まりの壁にぶつかった。しかし、壁の中央に手のひらほどの凹み。
そこに、玉片を当てはめてみた。
がごん…重い音とともに壁が左右に開いた。
中は小さな部屋だった。中央に台座があり、その上に一つの宝箱。そして、台座の周囲には五体の骸骨が折り重なるように倒れている。
「これらは…」
「この場所を守ろうとして死んだ者たちだろう」
林帆は静かに手を合わせ、宝箱を開けた。
中には、一振りの短剣。今持っているものよりずっと細身で、刃がうっすらと青く輝いている。そして、一冊の日記。
『我々は失敗した。三力同源を完成させる前に、結界が崩れた。後世の者よ、この剣と記録を受け継げ。ただし、同じ過ちを犯すな――力を急ぐあまり、調和を忘れるな』
「調和…か」
林帆はその言葉を胸に刻んだ。新しい短剣を手に取り、霊力を流してみる。すると刃が一瞬で輝き、手に馴染んだ。
「いい相棒だ」
彼は日記を収納指輪にしまい、旧い短剣も無駄にせず大事に持って帰ることにした。二刀流の可能性もある。
井戸を這い上がったとき、外はもう夕暮れだった。
その夜、小屋の床に陣を描き、新しい短剣を前にして彼は誓った。
調和を忘れず、しかし決して立ち止まらず。
これからも、一歩ずつ前に進むと。
この日を境に、彼の修行は新たな段階へと入るのだった。




