獣人の痕跡
南へ向かって二時間。
林帆は次第に森の様子が変わっていくのを感じた。木々の幹には無数の引っかき傷。地面には大きな足跡。そして、かすかに動物の体臭のようなものが漂っている。
「近づいているな。警戒しろ」
老怪の声に、彼は短剣を抜き、息を殺して歩を進めた。
十分後、視界の先に煙が見えた。焚き火の煙だ。
「誰かいる…」
慎重に近づき、茂みの陰から様子をうかがう。
そこには、人間の姿をした生き物が三匹。しかし、頭には獣の耳があり、尻尾も生えている。体は毛に覆われ、牙は鋭く尖っていた。
「獣人だ。それもかなり原始的な種族だな」
彼らは何かの肉を焼き、がつがつと食べている。言葉は話していないが、時折唸り声のようなものを交わしている。
林帆はそこで見覚えのあるものを見つけた。獣人の一人が腰に下げている革袋。そこに刺繍されている紋章。
「あれ…古戦場の祠の紋章と同じだ」
「つまり、こいつらが祠を荒らした可能性があるな」
獣人は三人。それぞれ短槍を持っている。体格は林帆より頭一つ分は大きい。
「どうする?やるか?」
「いや…まだ様子を見る」
しばらく観察していると、三人のうち二人がどこかへ歩き出した。残ったのは一匹だけ。
「今だ」
林帆は息を潜めて近づき、獣人が肉を噛り付いている瞬間、短剣で背後の急所を狙った。
ぶすり。
一撃。獣人は声も上げずに倒れた。
「悪くない手際だ」
林帆はすぐに倒れた獣人の革袋を奪い、茂みの中に引きずり込んだ。同時に、霊視で残り二人の気配を探る。
三十メートル先。木の陰で何かを探しているらしい。
「一人ずつ…」
彼は反対側に回り込み、音を立てずに近づいた。二匹目も同じ手口で。
三匹目は少し手こずったが、木の上から飛びかかって首を一閃。
「はあ…はあ…」
三人を片付けるのに、三分とかからなかった。
林帆は冷静に、倒れた獣人たちの持ち物を調べた。粗末な武器や革袋の他に、一匹の懐から小さな石の破片が見つかった。
それは…玉片のかけら。彼が最初に持っていたものと、同じ素材だった。
「これ…まさか?」
「同じものの一部かもしれん。後でよく調べろ」
彼はすぐにその場を離れ、小屋へ戻る道を急いだ。
帰り道、何度も後ろを振り返ったが、追ってくる気配はない。
小屋に戻った林帆は、その石の破片を玉片と並べて置いた。すると、二つがかすかに光り合い、引き合うようにくっついた。
「やはりな。この玉片は、いくつかの破片に分かれていたんだ」
「ということは…他の欠片もこの森のどこかにある?」
「おそらくは」
林帆は新しい破片と古い玉片を合わせ、収納指輪にしまった。
これで手に入れた情報は、三力同源の法がさらに深まった。新しい破片には、霊力を武器に込めて切れ味を上げる方法が記されていたのだ。
「明日から…これを試してみよう」
彼は短剣を手に取り、新しい力の感触を思い描いた。




