それぞれの収穫
湖から戻った林帆は、まず滝壺のそばで火を起こした。
体中の汗と泥を洗い流しながら、ここ数日の収穫を頭の中で整理する。霊力の採取方法を身につけた。闘気の量は以前の三倍。血脈は肩まで広がった。
「これで三力とも、それぞれ“初歩の次”くらいにはなったか」
老怪の評価は辛いが、自分でも成長は実感している。
彼は短剣を抜き、手入れをしながら考えた。次は何をすべきか。書物には「一力専修の後、二力の併用、そして三力の融合」とある。
「そろそろ二力に戻ってもいい頃だな」
翌日から、彼は闘気と血脈の二力循環を再開した。しかし以前とは違う。一つ一つの力の質が格段に上がっている。
五日後。闘気と血脈の二力が、ほとんど抵抗なく同期した。まるで二本の川が合流するように。
「これなら…霊力も加えられるかもしれない」
試しに、湖で採取した霊力を微量だけ循環に乗せる。
ぴたり。
うまく収まった。以前のように暴れたり、痛みを感じたりしない。
三力が、静かに調和している。
「成功…だ」
「まだまだ調整が必要だが、少なくとも道は開けた」
林帆はそのまま三力循環を一晩中回し続けた。
翌朝、目を覚ますと、体中から脂汗が出ていたが、疲れは全くなかった。それどころか、視界がより鮮明になり、耳の奥で風の音まで聞こえる。
「次は…あの湖に戻るか?」
「まだ早い。あの赤い目は今のお前では敵わない。まずは地図の他の場所を当たれ」
彼は古地図と『修行雑記』を広げ、手つかずの印を探した。
南。かつて「霊草園」があった場所。ただし今は獣人が住み着いているかもしれない。
東南。小さな遺跡。罠が多いが、まだ何か残っている可能性がある。
西北。「修行者の小屋」と記された場所。誰かが住んでいた跡。
「西北はどうだ?一番危険が少なそうだ」
「よし。そこにしよう」
彼は荷物をまとめ、滝壺に別れを告げた。もはや名残惜しさはない。次に戻る時は、もっと強い自分で。
西北へ向かって歩き出す。道中、何度か魔獣の気配を感じたが、迂回してやり過ごす。
半日後。彼は小さな丘の上に立つ一軒の小屋を見つけた。
屋根は半分壊れ、壁には蔦が絡まっている。しかし、入り口のドアはしっかりと閉まっていた。
「誰かいるか?」声をかけても返事はない。
慎重にドアを開ける。中には、簡素な机と椅子、本棚が一つ。そして床に、ぼんやりと光る陣が描かれていた。
「これは…修復用の簡易陣だ。長期間使われていなかったが、まだ動く」
林帆はその陣の中央に座ってみた。すると、体中の疲れが少しずつ溶けていく感覚。
「ここを拠点にしよう」
彼はそう決めて、まずは小屋の修繕を始めた。穴の開いた屋根を補い、蔦を取り除き、窓をきれいに掃除する。
小さな、しかし確かな自分の城。
ここからまた、次のステップへ進むのだ。




