霊気の源
古地図と『三力融合・基礎編』の記述を頼りに、林帆は森の最も深い場所へ向かった。
霊視を最大まで広げると、北東の方向から特に強い霊気の流れが絶え間なく湧き出しているのが見える。それは川のように太く、どこまでも続いている。
「あそこが…この森の霊気の源か」
歩くこと二時間。周囲の木々は次第に古く、太くなっていく。苔むした岩が増え、地面からはかすかな湯気のようなものが立ち上っている。
辿り着いたのは、古びた石の門だった。門の向こうは、濃い霧に包まれている。霊視でも、霧の先をはっきりと見通せない。
「ここは…」
「結界の跡だ。かなり古いが、まだ効力を残している」
林帆は慎重に門をくぐった。体が一瞬重くなる感覚。結界が侵入者を拒もうとしているが、弱まっているためかすぐに通り抜けられた。
霧の中を十歩ほど進むと、突然視界が開けた。
そこには――小さな湖があった。湖水は透き通り、底まで見える。湖の中央からは絶え間なく泡が立ち、霊気が立ち昇っている。
「霊気の泉だ…それもかなりの規模」
林帆は湖のほとりに座り込み、まずは手を浸してみた。ひんやりとしながらも、指先からじんわりと力が染み込んでくる。
「これなら…効率よく霊力を取り込めそうだ」
彼は書物の指示に従い、湖の水を掌ですくい、その水の中に含まれる霊気だけを体内に引き寄せる訓練を始めた。
一日目。水をすくっては捨て、すくっては捨てる。なかなか霊気だけを抽出できない。
三日目。ようやく、水の中から米粒ほどの小さな光を取り出すことに成功した。
七日目。掌の上の水全体から、均等に霊気を吸い上げられるようになった。
「これが“霊力採取”か」
「初歩の初歩だ。しかし、これでお前は自力で霊力を補給できるようになった」
林帆は湖のそばに簡易的な寝床を作り、毎日ここで霊力の訓練を続けることにした。
十五日目。体内に取り込める霊力の量が、宝玉のかけら一個分を超えた。
三十日目。湖の霊気の流れが、以前よりもかすかに細くなった気がする。使いすぎたのか。
「心配するな。しばらく休めば戻る。ただし――」
老怪の声が急に真剣になる。
「あれを見ろ」
林帆が湖の向こう側を見ると、霧の中から二つの赤い光が浮かび上がっていた。目だ。
「何かいる…」
「魔獣だ。これまでのお前が出会ったものとは比べ物にならない。動くな。息を殺せ」
林帆は息を止め、三力循環を極限まで遅くした。
赤い目はしばらく彼の方を見つめていたが、やがて霧の中へ消えていった。
「何だったんですか?」
「湖を守る何かだろう。お前はたまたま見逃された。次はそうはいかん」
林帆は冷や汗を拭いながら、その場を離れることにした。今日の訓練はここまで。しかし、湖のことは忘れない。
いつかまた、ここに戻ってくる。その時は、隠れるのではなく、堂々と。
その決意を胸に、彼は霧の中へ歩いていった。




