古戦場の残響
南西へ向かうこと一日。
林帆は地図に記された「古戦場」と呼ばれる場所に到着した。そこは、森の中にぽっかりと開けた荒野だった。木々はなく、地面は黒く焼け焦げ、所々に巨大な爪痕が残っている。
「ここは…」
「かつて修行者同士が戦った跡だ。それもかなりの規模でな」
林帆は慎重に歩を進めた。霊視で周囲を探ると、地面のあちこちにかすかな霊気の残り香が漂っている。戦いの名残だ。
ふと、足元に何かが引っかかった。錆びた剣の破片。柄の部分には家紋のようなものがかすかに残っている。
「これは…拾えるか?」
「持っていけ。後で役に立つかもしれん」
収納指輪にしまい、さらに奥へ。しばらく歩くと、地面が盛り上がっている場所に出た。塚のようにも見える。
その中心に、半分地面に埋まった石碑。文字が刻まれているが、風化して読めない。
「誰かの墓か…」
手を合わせようとしたその時、石碑の周りの霊気が突然渦を巻いた。
「下がれ!」
林帆は反射的に後ろに飛んだ。次の瞬間、石碑の前に青白い光が集まり、ぼんやりとした人影を形作った。
「何百年ぶりだ…生きている人間は」
声はかすれ、震えている。霊体――亡くなった修行者の残留思念だった。
「わ、私は林帆といいます。ここを通りかかっただけで…」
「怖がるな。もうお前を傷つける力は残っていない」霊体はため息をついた。「ここで何を探している?」
「特に何かというわけでは…強くなる方法を探しているんです」
霊体はしばらく黙った後、言った。「ならば、教えてやろう。この戦場の中央に、かつて我々が守っていた小さな祠がある。そこに、あるものを残してきた」
「あるもの?」
「行けばわかる。ただし――同じ過ちを繰り返すな」
そう言い残して、霊体は霧のように消えた。
林帆は冷や汗を拭いながら、戦場の中央へ向かった。十分ほど歩くと、確かに小さな祠があった。石造りで、屋根は半分崩れているが、中の祭壇は無事だった。
祭壇の上に、一冊の書物と、一振りの短刀。短剣よりも小さいが、刃はまだ光を反射している。
「これは…」
書物を開くと、『三力融合・基礎編』と表題がある。中には、今まで見たどの情報よりも詳細な、三力の扱い方が記されていた。
「これこそ…お前が求めていたものだ」老怪の声が震えている。「玉片や巻物は断片的だった。これは完成された教科書だ」
林帆はその場で何度も頭を下げた。そして、書物と短刀を収納指輪にしまい、静かに祠を後にした。
帰り道、彼は何度も後ろを振り返った。霊体はもう現れない。
「いつか…この恩を返しに来る」
そう心に誓って、彼は森の中へ歩いていった。




