泥の中から一歩
あの夜から、林帆の洞窟生活は一変した。
玉片が教えた「三力同源」の理――それは常識を覆すものだった。通常、修行者は一つの力だけを極める。しかしこの法門は、霊力・闘気・血脈を同時に育めと命じる。しかも、どれか一つが欠けても前に進めない。
「無理だ…普通の人間にできるはずがない……」
そう思いながらも、彼は手を伸ばした。他に道がないのだから。
まず試したのは、体内に残るわずかな闘気を霊根へ導くこと。三日三晩、意識を集中した。しかし結果は――激しい痛みだけ。気脈が焼けつくように熱くなり、思わずのたうち回った。
「がっ……!」
血を吐いた。七回目の失敗だった。
「ほう、まだ生きていたか」
かすれた声が頭の奥に響いた。林帆は飛び上がる。
「だ、誰だ!」
「この玉片の中にいる。お前が拾った古代の遺物だ。…まさか、こんな屑のような体で『三力同源』をやろうとはな」
声の主は「老怪」と名乗った。かつてこの法門を追い求めた修行者だが、道半ばで命を落としたという。
「お前に教えられることは一つだけある。無理に三つを同時に動かすな。まず一番感じやすい力――お前の場合、闘気だ――それだけを、一番動かしやすい霊根の一本に流せ。ほんの一筋でいい」
林帆は半信半疑で従った。闘気を選び、最も細い水属性の霊根へ。一滴、また一滴……一時間後、指先が微かに熱を持った。
「成功……した?」
いや、まだ始まりに過ぎない。しかしその小さな感覚が、十六年間の暗闇に一筋の光を差し込んだ。
「これが……第一歩か」
泥の中から這い上がるように、彼は立ち上がった。まだ立っただけ。歩くのはこれからだ。




