黒き牙との対峙
黒狼のボスは、入り口を塞ぐように立っていた。体長は二メートル近い。毛の一本一本が針のように逆立っている。
林帆は短剣を逆手に握り、低い姿勢をとった。正面から力比べをすれば、一瞬で押しつぶされる。わかっている。
「左の後ろ脚…古傷がある」
霊視で見ると、狼の左後ろ脚から漏れる霊気が他の場所より薄い。かすっているが、確かに弱点だ。
狼が飛びかかった。
林帆は右に転がり、攻撃をかわす。同時に短剣で狼の左後ろ脚を狙って一閃――
ガリッ!
手応えがあった。しかし浅い。狼の体毛は硬く、深く切れていない。
「ギャウッ!」
狼が怒りの吼え声を上げ、素早く向き直る。二撃目。今度は前脚での叩きつけ。
林帆は両腕でガードした。衝撃で三歩後ろに吹き飛ぶ。腕が痺れる。
「ちっ…硬い!」
三力循環を最高速度で回す。痺れがすぐに引いた。同時に、短剣に霊力を集中させる。刃が青白く輝く。
狼が三度目の攻撃。今度は噛みつき。
林帆はあえて正面に立ち、牙が目前に迫った瞬間、しゃがみ込んだ。そして、狼の首の下をすり抜けながら、短剣を顎に向かって突き上げた。
ぶすり。
刃が柔らかい部分を貫いた。狼の体が硬直する。
林帆は短剣を引き抜かず、そのまま渾身の力で押し切った。
どさり。
巨大な体が地面に倒れた。血がゆっくりと広がる。
「はあ…はあ…」
林帆はその場に膝をついた。全身が震えている。しかし、短剣はしっかりと握ったまま。
「上出来だ」老怪が言った。「初めての実戦で、弱点を見極め、武器を使いこなした。お前はもう、半歩前に出た」
林帆は狼の死体から牙を四本、それから特に丈夫そうな背中の毛皮を剥ぎ取った。収納指輪に入れる。
「これでしばらくは生活できる…」
洞窟に戻る道すがら、彼は初めて「勝った」という実感を持った。恐怖はあった。しかし、その恐怖を乗り越えた先に、確かな手応えがあった。
その夜、滝壺のそばで焚き火を囲みながら、彼は黒狼の牙を短剣の鞘の飾りに付けた。自分への戒めであり、誇りでもある。
「次はもっと強くなる」
火の粉が星に向かって舞い上がる。彼はその光を、ぼんやりと見つめていた。




