古地図の導き
東へ半日。
林帆は古地図を片手に、まだ見ぬ場所へ向けて歩き続けた。霊視を開いたまま、周囲の霊気の流れを確認しながら進む。森は次第に暗くなり、木々の間から差し込む日差しが減っていく。
「そろそろ近いはずだ…」
地図の印は、大きな岩を目印としていた。探すこと十分。ようやく、周囲の木々よりも一回り巨大な岩を見つけた。
「これか!」
岩の周りをぐるりと回ると、北側の根元に小さな穴が開いている。霊気の線が、その穴から立ち昇っている。
「中に入るのか?」老怪が問う。
「入ります」
林帆は体を縮め、穴の中へ滑り込んだ。中は思ったより広く、大人が立って歩けるほどの高さがある。壁には苔が生え、所々で蛍のような光を放つ虫が飛んでいる。
奥へ進むと、突然視界が開けた。
そこは地下空間だった。天井まで十メートルほどの高さ。中央に小さな泉があり、泉の水は青白く光っている。その周囲に、見たことのない草花が群生している。
「これは…霊草園だ!」
老怪も興奮した口調で言う。「それも自然にできたものではない。誰かが昔、ここで栽培していたんだ」
林帆は慎重に近づいた。霊視で確認すると、草花ごとに異なる色の光を放っている。赤、青、黄、緑――
「どれを採ればいいんですか?」
「まずは一番数を減らしているやつ。この黄色い花だ。『金霊花』。数が少ないから貴重だ。根ごと掘り起こせ」
彼は牙のナイフで丁寧に土を掘り、小さな花を三株、収納指輪にしまった。
次に、泉の水を試してみる。手を浸すと、じんわりと温かい。霊力が濃い。
「ここの水も汲んでいけ。滝の水よりずっと効果がある」
革袋にいっぱい汲んだところで、奥の壁に違和感を覚えた。霊視で見ると、壁の向こう側にさらに空間がある。
「隠し部屋か?」
岩を押してみると、かろやかに動いた。奥は小さな祠のようになっている。中央に石の台座。その上に、一振りの短剣が置かれていた。
刃渡りは三十センチほど。錆びてはいないが、くすんでいる。柄には見慣れない宝玉が埋め込まれている。
「これは…霊器だ!」老怪の声が上ずる。「それも結構な代物。お前の三力循環を使えば、ようやく扱えるかもしれん」
林帆は短剣を手に取った。ずしりと重い。しかし、その重みが心地よい。
試しに三力を柄に流し込むと、刃がかすかに青白く輝いた。
「いい相棒になりそうだ」
その時、入り口の方から低い唸り声が聞こえた。振り返ると、穴の入り口を大きな影が塞いでいる。
二本の赤い目。黒い毛並み。そして、鋭い牙――
「黒狼のボスか!」
林帆は短剣を構えた。これまでの黒狼より二回りは大きい。
「逃げるか、やるか?」
彼は短剣の柄を握り直した。
「やります。この剣の試し打ちに、丁度いい」




