体を磨く
滝の裏の壁の教えに従い、林帆は修行の三本柱を再定義した。
体を磨く――筋力・持久力・柔軟性を高める。気を練る――三力循環の速度と精度を上げる。神を養う――精神を集中し、雑念を断つ。
これまでは「気」ばかりに偏っていた。そこに「体」と「神」を加える。
朝。まずは滝の水を全身に浴びながら、腕立て伏せ百回、腹筋百回、そして滝壺を十往復泳ぐ。
「はあ…はあ…」
息は切れるが、不思議と苦しくない。三力循環が自動的に回り、疲労を回復してくれるからだ。
「効果はあるのか?」老怪が聞く。
「はい。前より体が軽い気がします」
次に「神」の訓練。滝の裏の暗い空間に座り、ただ息を数える。一、二、三……百まで数えたらまた最初から。雑念が浮かべば、最初に戻る。
最初の三日間は、十まで数えただけで別のことを考えていた。七日目でようやく五十まで到達。十五日目で百まで数えられるようになった。
「暇な訓練だが、大事なんだな…」
「当たり前だ。戦闘中に雑念を持てば、即死だ」
その日の午後、林帆は滝の裏の壁をもう一度よく調べてみることにした。これまで気づかなかったが、壁の一番下の隅に、小さな凹みがある。
指を入れて引っ張ると、かたい石の蓋が外れた。中には、錆びた鉄の指輪。
「これは…」
「収納指輪だ!ただし、壊れかけている。霊力を流してみろ」
林帆は三力循環から微量の霊力を指先に集め、指輪に注いだ。
一瞬、意識の中に小さな空間が浮かんだ。一辺が三十センチほどの立方体。中には、ボロボロの地図と、三粒の錠剤が入っていた。
「地図と…薬?」
「どれどれ」老怪が地図を見て言う。「これは…三界交鋒の古い地図だ。お前の洞窟やこの滝の位置も書いてある。それに、いくつかの場所には『霊草』『遺跡』の印がある」
林帆の心臓が跳ねた。
錠剤の方は、老怪が言うには「凝血丹」という止血剤らしい。ただし長期間経っていて効果は半減しているが、ないよりはましだ。
彼は指輪を左手中指にはめ、必要な時に霊力を流せば出し入れできることを確認した。
「これは大きな収穫だ」
その夜、彼は地図を広げて明日からの計画を立てた。滝から最も近い印は、東へ半日歩いた場所にある「霊草の可能性あり」。
「行ってみます」
翌朝、彼は新しい装備を整えた。黒狼の牙ナイフ、収納指輪の中の地図と凝血丹、そして宝玉のかけらと腐霊草と銀葉参の根。
まだまだ貧弱だが、昨日までの自分よりは確かに強くなっている。
彼は東の森へ向かって歩き出した。背中には滝の音。足取りは前よりも軽く、そして確かだった。




