滝の修行
滝壺での生活が始まってから、三週間が経った。
林帆は毎日、朝と夕方の二回、三十分ずつ滝の真下で水を浴びながら三力循環を回した。水の冷たさが気脈を引き締め、霊気が体内に染み込んでくる。
今では十呼吸で一周できる。両腕の赤い線は肩を越え、胸の中心に向かって伸び始めている。
「順調か?」
「はい。でも、この頃少し変なんです」
林帆は自分の手のひらを見つめた。かすかに青白い光が浮かんでいる。以前は集中したときだけ見えたものが、今は何となく常に視界の隅にある。
「霊視の常時発動が近い証拠だ。もう少しで、お前は常に霊気の流れを視られるようになる」
その言葉に期待しながら、彼はその日の訓練を始めた。
滝の下で目を閉じる。冷たい水が頭から肩、背中へと流れ落ちる。その中に混ざる微かな霊気の粒を感じ取る。
循環を回す。三呼吸で一周。さらに加速する――
突然、視界がパッと開けた。
閉じているはずのまぶたの裏に、はっきりとした青白い世界が広がっている。洞窟の壁の向こう側にある霊気の流れ。地面の下を巡る地脈。そして、自分の体内を巡る三色の光――闘気の赤、血脈の橙、霊力の青。
「見える…はっきりと見える!」
老怪も驚いた様子だ。「まさか、この短期間で常時霊視を獲得するとは。お前の適性は、我の予想を超えている」
林帆は目を開けた。現実の景色は変わらない。しかし、その上に重なるように霊気の情報が浮かんでいる。
試しに、滝の裏側を見てみる。すると、水のカーテンの奥に、小さな空洞があるのが見えた。
「あの中に…何かあります」
「滝の裏か。行ってみるか?」
林帆は慎重に滝の脇から岩場を伝い、水の勢いが弱い部分をくぐり抜けた。
そこには、広さが四畳ほどの空間があった。奥行きは十メートルほど。天井からは水滴が落ちている。そして――
壁一面に、古い文字が刻まれていた。
「これは…巻物と同じ文字系統だ!」
林帆は興奮して近づいた。指でなぞりながら読む。
『凡骨の道は遠し。まずは体を磨き、次に気を練り、最後に神を養う。体・気・神の三つが揃って、初めて修行者と呼べる…』
「体・気・神…これは三力とはまた違う分類だな」
老怪も興味深そうに読む。「しかし、言っていることは同じだ。基礎が全て。お前は今、“気”の段階にやっと足を踏み入れたに過ぎない」
林帆は壁の文字を全て暗記した。半分ほどは摩耗して読めないが、得られるものは大きい。
その夜、彼は滝壺のそばで焚き火を起こし、今日の収穫を反芻した。
体を磨く。もっと体を鍛えなければ。気を練る。循環をもっと速く。神を養う。精神を集中し、雑念を払う。
やることは山積みだ。しかし、その一つ一つが確実に、自分の力へと変わっていく。
明日からは、滝の裏で朝の訓練をしよう。そう決めて、彼は目を閉じた。
滝の音が、子守唄のように聞こえた。




