表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/112

濃霧の向こう

銀葉参の三枚の葉を全て使い終えた翌朝、林帆は洞窟を早足で出た。


霊視を開くと、森の奥から幾筋もの青白い霊気の線が立ち昇っているのが見える。特に、これまで入ったことのない北東の方向が最も濃い。


「老怪、あそこは何なんです?」


「さあな。しかし霊気の濃度が他と桁違いだ。何かがあるに違いない。同時に、何かが住み着いている可能性も高い」


林帆はナイフの柄を握り直し、慎重に歩を進めた。


三十分ほど進んだとき、視界が急に開けた。そこは――沼地だった。


面積は野球場ほどの広さ。水面は濁った緑色で、所々から泡が立っている。そして、その中央にぽつんと一本の枯れ木が立っていた。


枯れ木の根元に、かすかに光る何か。


「あれは…」


「“腐霊草”だ。沼地の毒気を吸収して育つ珍しい霊草。銀葉参より一段階上の代物だが、採取には細心の注意が必要だ」


林帆は沼の縁を回り込み、枯れ木に近づける場所を探した。しかし、沼全体がぬかるみで、足を踏み入れればすぐに沈みそうだ。


「どうすれば…」


「お前の二力循環を使え。血脈の熱で足元の地面を一時的に硬化させ、その上を走れ。ただし、一瞬の判断ミスで沼の底だ」


林帆は深呼吸をした。循環を最高速度で回し、左手の血脈から熱を足裏へ集中させる。


そして――走った。


バチバチと地面が固まる音。三歩、五歩、十歩。枯れ木までもう少し――


その時、足元の地面が突然柔らかくなった。


「しまっ――」


体が沈みかける。しかし彼は反射的に右手のナイフを枯れ木に突き立て、体を引き寄せた。


なんとか幹にしがみつく。下を見ると、ぬかるみが彼の足首まで飲み込んでいる。


「腐霊草…そこだ!」


手を伸ばす。指先が光る草の根元に触れた――


引き抜く。


同時に、沼の中心が大きく波打った。何か巨大なものが動いた気配。


「戻れ!」


林帆は逆の手順で、再び地面を硬化させながら全力で走り返した。背中に冷たい風を感じる。何かが迫っている。


岸に飛び込むと同時に、後ろの地面が大きく陥没した。沼の中から太い触手のようなものが顔を出したかと思うと、すぐに水中へ消えた。


「あ、危なかった…」


彼は腐霊草を握りしめたまま、しばらく立ち上がれなかった。


「よく生きて帰った。あれは“沼の古蛇”の幼体だ。成体ならお前は一瞬で引きずり込まれていた」


林帆は震える足でその場を離れた。帰り道、何度も後ろを振り返ったが、追ってくる気配はない。


洞窟に戻った彼は、腐霊草を布の上に広げて眺めた。銀葉参よりは小さいが、光は強い。


「今すぐ使うか?」


「いや、これはまだとっておけ。今のお前には刺激が強すぎる。二力循環が完全に安定してからにしろ」


林帆はうなずき、腐霊草を銀葉参の根と一緒に布袋の奥にしまった。


今日は生きて帰れただけで十分な収穫だ。


その夜、彼はいつもより長く循環を回した。怖かったが、それ以上に「もっと強くなりたい」という思いが強くなっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ