海辺の神殿
村を出てから半日。
林帆とヨルは、島の中央へ向かって歩き続けた。道は次第に山道へと変わり、両側には古い木々が生い茂る。風は暖かく、時折潮の香りが混ざる。
「神殿は、この先にあるらしい」
地図には、小さな印と共に『星の神殿』と記されている。しかし、誰が建てたのか、いつ建てられたのかは書いていない。
一時間ほど歩いたとき、視界が開けた。そこには、白い石でできた神殿が立っていた。規模は大きくないが、美しい造形。柱には海の生き物の彫刻。入り口には、二体の魚の像。
「ここか…」
近づくと、神殿の扉が自動的に開いた。中は薄暗く、ろうそくの灯りが揺れている。奥には石の祭壇。その上に、一冊の書物と、一つの貝殻。
林帆が祭壇に近づくと、貝殻がかすかに光り、声が聞こえた。
「よく来た。待っていた」
声は優しく、女性のものだ。
「私はこの神殿の守護者、海の声。あなたが星の涙を持つ者か」
「はい」
「ならば、この貝殻を手に取れ。それは“潮の記憶”。海の全ての記憶が詰まっている」
林帆は貝殻を手に取った。冷たく、しかし触れると温かくなる。彼の掌の中で、貝殻がかすかに震えた。
その瞬間、彼の脳裏に多くの映像が流れ込んだ。嵐、船、沈没、そして多くの命が海に消えていく様子。
「これは…」
「この海の歴史だ。あなたには、それを知る資格がある」
林帆は深く息を吸い、映像を受け入れた。すべてが一瞬のことだった。しかし、その重みは大きい。
「なぜ俺に?」
「あなたは多くの世界を渡り歩いている。そして、これからも渡り続ける。海の記憶は、あなたの道標になるだろう」
貝殻は光を失い、ただの貝殻に戻った。しかし、林帆の胸の中には、確かな知識が刻まれていた。
「帰ろう、ヨル。この島の役目は終わった」
「次はどこへ行くの?」
「海の記憶が教えてくれた。この島の北西に、別の世界へ通じる“潮の門”があると」
二人は神殿を出て、北西へ向かって歩き出した。
道中、潮の香りが強くなる。やがて視界の先に、大きな岩場が見えた。その中央に、ぽっかりと開いた洞窟。中からは青白い光が漏れている。
「ここだ」
洞窟の中に入ると、そこは青く輝く空間だった。壁には無数の貝殻が埋め込まれ、天井からは雫が落ちる。奥に、光の渦。
「これが…潮の門」
林帆は剣を背負い直し、ヨルの手を握った。
「行こう。次の世界へ」
二人は光の渦に足を踏み入れた。
体が軽くなる。海の匂いが遠くなる。
そして、新しい世界の風が、彼らを包み込んだ。




