書物の教え
マールから書物を受け取ってから五日。
林帆は毎晩、寝る前にその書物を読み続けた。ページをめくるたびに、星の涙の新たな側面が明らかになる。
『星の涙は、単なる力の器ではない。それは“意志の結晶”だ。持ち主の願いを形にする力を持つ。ただし、その願いが強く、純粋でなければならない』
「意志の結晶…」
彼は石を手のひらに乗せ、じっと見つめた。石は温かく、かすかに脈打っている。
『力を使うには、まず自分の内側と向き合え。何のために力を求めるのか。何を守りたいのか。それがはっきりして初めて、石は真の力を解放する』
林帆は目を閉じ、自分自身に問いかけた。
何のために力を求めるのか。
最初はただ生きるためだった。次に、大切な人を守るため。そして今は――世界を渡り、真実を知るため。
「それで十分だ」
彼は石を握りしめ、右手の紋章に意識を集中した。三力循環をゆっくりと回す。まだ完全ではないが、以前よりずっとスムーズだ。
翌朝、彼は一人で星の湖へ向かった。ヨルには「少し考えたいことがある」と伝えて。
湖のほとりに座り、彼は書物を開いた。最後の章には、こう記されていた。
『石の力を完全に引き出すには、“星の儀式”を行うべし。月明かりの下、石を地面に置き、右手の紋章で三つの円を描け。その時、心の中で最も強く願うことを念じよ』
今夜は満月だ。絶好の機会。
その夜、彼は再び湖へ向かった。月は明るく、湖面に銀色の光が揺れている。
彼は石を地面に置き、右手の紋章で三つの円を描いた。
一つ目の円――星の力。
二つ目の円――マナ。
三つ目の円――根源の力。
全ての円が光り、石が浮かび上がる。彼は心の中で叫んだ。
「俺は全ての世界を巡り、真実を知りたい。そのために力を貸してほしい!」
石が爆発的な光を放ち、彼の体を包み込んだ。
光が収まったとき、彼の体内に力が満ちていた。三力循環が完全に戻り、マナも星の力も感じられる。完全ではないが、以前の八割程度まで回復した。
「これなら…あの門を越えて、剣を取り戻せる」
彼は立ち上がり、拳を握った。力が漲る感覚。久しぶりだ。
翌朝、町長に伝えた。
「もうすぐ旅立ちます。最後の仕事を終えたら」
「何をするつもりだ?」
「門の向こうに置いてきたものを取りに行く。必ず戻ってきます」
町の人々が集まり、林帆を見送った。ミラも目を潤ませている。
「気をつけてね」
「ありがとう。必ず戻る」
林帆とヨルは、北の門を目指して歩き出した。
空は青く、風は優しい。
二度目の門越えは、成功する。
そう信じて、二人は歩き続けた。




