星の涙の導き
狼の群れを退けてから四日。
林帆は毎日、星の湖へ通い続けた。ミラには「薬草を探しに行く」と伝え、実際に湖の周囲で新しい種類の草も見つけている。しかし本当の目的は、あの光魚たちとの対話だった。
三日目、彼は湖のほとりで座禅を組み、右手の紋章に意識を集中した。すると、湖面が波立ち、光魚が五匹、姿を現した。先頭の魚は特に大きく、体長は五十センチほど。その背中に、かすかな文字が浮かんでいる。
「これは…古代文字だ」
『星の涙は、世界の記憶を映す。真実を知りたければ、北の古塔へ行け』
魚たちはそれだけを告げ、水中へ消えた。
林帆は町に戻り、ヨルとミラに話した。
「北の古塔…聞いたことあるか?」
ミラが首をひねる。「北には何もないって聞いてるけど…でも、おばあちゃんが昔、小さな塔があったって言ってた気がする」
「行ってみる価値はありそうだ」
その夜、彼は一人で宿の屋根に上がり、星を見上げた。右手の紋章がかすかに輝いている。胸のポケットの星の涙も温かい。
「まだまだ知らない世界がある」
翌朝、林帆は町長に三日程の休暇をもらい、ヨルと一緒に北へ向かった。ミラも同行したいと言ったが、危険を考えて今回は断った。
北へ向かう道は、最初は草原だったが、次第に岩場に変わる。風が強くなり、肌寒い。
半日歩いたとき、視界の先にぼんやりとした影が見えた。塔だ。
石造りの、古びた塔。しかし周囲には何もなく、風雨に耐えて長い間立っていたことがわかる。
近づくと、塔の入り口には鍵がかかっていなかった。押すと、軋む音を立てて開いた。
中は薄暗く、螺旋階段が上へ続いている。壁には無数の落書き。かつてこの塔を訪れた者たちの名前と思われる。
最上階に辿り着くと、そこは小さな部屋だった。窓からは北の果てまで見渡せる。
中央の台座に、一冊の日記が置かれていた。
林帆が開くと、古い文字で記されている。
『私はこの塔を建てた者。星の湖に石が落ちた時、世界の真実を知った。しかし、それを伝える者は誰もいない。この日記が、いつか誰かの手に渡ることを願って』
日記には、この世界の成り立ち、三つの力の関係、そして星の涙の正体が記されていた。
「星の涙は、世界を結ぶ鍵。それを完全に使いこなせば、全ての世界を行き来できる」
林帆は息を呑んだ。つまり、この石があれば、剣や杖を取りに戻れるということだ。
「まだ完全じゃない。でも、もっと使い方を学べば…」
彼は日記をしっかりと閉じ、胸のポケットにしまった。
塔を出ると、夕日が赤く燃えている。
「帰ろう。学ぶべきことが、まだたくさんある」
ヨルがうなずき、二人は並んで歩き始めた。
町へ戻る道すがら、林帆は日記の内容を反芻した。星の涙の真の力は、まだ眠っている。
それを目覚めさせるのは、自分自身の意志次第だ。
そして、その意志はもう固まっていた。
必ず、全ての世界を巡る旅を完遂する。
そのために、今日も一歩を踏み出した。




