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医療用ベッドに染み込み、乾いた血はドライフラワーにした黒薔薇のような感触だ。それを見ながら椅子に座り、血の上に臥すと脳の奥で感情が喜ぶ。
――これこそ、自分のすべて。流れゆく、その血さえ愛しい。
それらはやがて、自らの血となり、肉となり、永遠の導きとともに連なってゆく。
目を閉じると、彼の方は囁く。漆黒の瞳を自分へ向け――愛している、と。
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最近では馬車に取って代わって、〈自動車〉なる物ができたらしい。馬に引かせていたのを、蒸気やガソリンという液体だか何だかに替えて走らせる代物だそうだ。そういえば、遠く離れているのに話せる〈電話〉というのも発明されていたはずだ。
今年は一八九三年。イリノイ州のシカゴでは、五月から今月の三日まで万博博覧会というイベントが行われていた。時代はどんどん便利になり先へ進んでいく。それに対し、少し感傷的になってしまう自分がいる。過ぎ去りし刻は、果たして本当に過去のものか? 秋もあいまってか、そんな詩人めいた思いに耽ってしまう。
窓から外を見ていると、ベスが買い物から帰って来た。その足音を聴きつけた野良猫のティーカップとメリーベルがどこからともなく出て来て、ベスの脚にまとわりつき、餌をねだっている。「ちょっと待ってね」と言うようにベスは猫を避けて、玄関のドアを開けた。
「ただいま、あなた」
「おかえり、ベス」
「ねえ、あなた。ちょっとティーカップとメリーベルに、餌をあげてくれない? 私、買って来た物を片付けなきゃ。それと、ソプラノは帰って来た?」
「もう秋だから、ロマンスを求めて旅立ったんだよ。そのうち戻ってくるさ」
「それもそうね」
ベスはそう言って、買い物かごをダイニングテーブルに置いた。僕は棚にしまってあるソプラノ用の餌をそれぞれ皿に分け入れ、外に出た。
「ほら、餌だぞ」
僕が餌皿を置くと、二匹の猫は皿に近づき、食べ出した。ゆっくり味わうように口を動かしている。
「美味いか?」
僕の問いに、ニャウワウと、何とも可愛い声で答えながら二匹は食べ続けた。
ティーカップとメリーベルを見ていると、僕も猫になりたくなってくる。まあ、この思いは、人生で誰しもが一度は願うことだろう。
僕は空に視線を移し、雲一つない、秋晴れの空を眺めた。しかし、リジーの一件が落ち着いたと思っていたら、この事件。偶然だが、本当に忙しいことだ。まあ、何が起きても仕方ない。




