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「主人は仕事で居りませんので、私から伝えておきますね」

 微笑んだ顔は更に美しい。女神とは、こういう人のことを言うのだろうな。声がとても心地いいし、一緒にいて落ち着く人だ。なんてことをベスが聴いたら、すごく怒りそうだ。

「はい。よろしくお願いします」

 邸宅へ入ると、「ジョージは二階の自室にいます。リンゴを切ったら私も行きますね」と言い残し、ポズウェル夫人はキッチンへ行った。僕はそれを聴いて、二階へ上がった。

「ジョージ君。僕だよ、ブラッド。入ってもいいかな?」

 そうノックした後に、ドアの外から問うと、中から「いいですよ!」と返事が返ってきた。僕がドアを開けて入ると彼は起きており、背にあるクッションにもたれかかっていた。

「やあ、ジョージ君。調子はどう?」

「はい! もう大丈夫ですよ! 一時期は死ぬんじゃないかって思いましたけど」

「熱は苦しいからね。僕も経験あるよ。今さ、ハリエットさんがリンゴを切ってくれているから。どう? 食べれそうかな?」

「はい。いただきます!」

 すっかり元気そうなジョージ君に、僕も安心した。

「ハッサンも心配してたよ」

「何だか皆さんには心配かけてしまいましたね」

「心配するのは当たり前だよ。気にしないで、今はゆっくり休んで」

「はい。ありがとうございます」

 彼がそう言ったところで、ハリエットさんがノック後に部屋へ入って来た。皿には、奇麗に切り分けられたリンゴが盛り付けてある。

「ああ、ハリエットさん。僕はこの辺で帰ります。ジョージ君、それじゃまたね」

「はい」

「何のお構いもしませんで」

「いえ。それでは失礼します」

 僕は脱いだ帽子を手に言った。





 それを目の当たりにした時、人は高揚するだろう。自分が住んでいる世界とは違う、その世界に。これまで見たことのない世界だからこそ、魅了される。

 百八十度の角度が隔絶する世界は、特別なことではなく、人の拭い去れない痛みや苦しみとともに織り成され、他人に高揚感を与える。そうして、これまで味わったことのない狂った世界が、禁断の果実のように少しずつ人の心を食んでいく。心の片隅で、そう、無意識のように思いめぐらし、天井の揺れるランプからコンクリートで塗り固めた床へ視線を落とす。

 聖なる肉体から流れ出た血は、最初こそ鮮やかな赤だったが、時間の経過と共に黒へと変化していった。

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