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異形頭のダンデライオン ~異形の『美味しそう』なお嬢様は人外執事のご主人様~  作者: 石動なつめ
第8節 お嬢様と異形の兄弟

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#47 何もいないアクアリウム


 暗闇の中を進んだ五十鈴たちが辿り着いたのは、まるで水族館のように青い光に照らされた、巨大な水槽(アクアリウム)の並ぶ広い部屋だった。

 水槽のガラスは拭き残しなく丁寧に磨かれ、澄んだ水で満たされた中には水草が優雅に揺れている。


 ――ただ、その水槽にはひとつ奇妙な点があった。魚がいないのだ。


 部屋をぐるりと覆うように、隙間なく置かれた水槽のいずれも魚が泳いではいない。もしかしたら水草の影に隠れているのかと思い、そっと覗いてみた五十鈴だったが、そこにはやはり何の影もなかった。


「はてさて、何を飼っているんだか」


 水槽を一瞥したアルヴェアーレが、ぼそっとつぶやいた。

 奇妙に感じているのは、どうやら五十鈴だけではないようだ。


「魚らしい匂いはないっすね」


 すん、と鼻を動かしたリカントもそう続ける。何とも不思議な空間だ。

 そんな中、五十鈴たちを案内してきた文字は停まらずに、まだまだ先へと導こうとしている。周囲の水槽を気にしつつ、五十鈴たちが前へ進んだ――その時だ。


 ――ぴちゃん。


 不意に、後方で雫が跳ねる音が聞こえた。

 ハッとして五十鈴が振り返る。


「五十鈴? どうした?」

「いえ、今何か音が……」

「音? 何も聞こえなかったっすけど」


 リカントの言葉に五十鈴は「えっ」と目を瞬いた。

 アルヴェアーレはどうかと顔を向ければ、彼女も首を傾(かたむ)けている。


「どんな音だった?」

「こう、ぴちゃんって水が落ちる音が」


 ――ぴちゃん。


「あ、また!」


 今度こそはと二人を見るが、首を横に振られてしまった。やはり彼女たちには聞こえていないようだ。

 幻聴だろうか――そう思った時アルヴェアーレは「……良くないな」とつぶやいて、五十鈴の肩を抱いた。わっ、と見上げれば、彼女は周囲へ素早く目を走らせている。


「リカント、用心しなさい」

「了解っす」


 二人の纏う空気が張り詰めている。自分の身に何かが起きていることは、五十鈴にだって否が応でも分かった。

 ごくり、と唾を飲み込んで様子を見ていると、 


「弟の誕生日会へようこそ、御三方」


 氷のように凍てついた声が部屋に響き渡った。

 ハッとして顔をそちらへ向ける。すると入り口付近にある水槽の手前に、誰か立っているのが見えた。


 艶やかな黒髪に黒曜石のように黒い肌をした、五十鈴と同じかそれより年下の少年だ。

 白衣らしき衣装を着た彼は、夜空色の瞳をじっと五十鈴へ向けていた。


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