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異形頭のダンデライオン ~異形の『美味しそう』なお嬢様は人外執事のご主人様~  作者: 石動なつめ
第8節 お嬢様と異形の兄弟

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#40 路地の捨て犬

 五十鈴は思わず足を止めて、辺りをきょろきょろと見回した。

 すると少しして、もう一度「きゃんっ」と鳴いた。

 その声は近くにある狭い路地の方から聞こえてくるようだった。


「あちらかしら?」


 何となく気になった五十鈴は、そちらへ向かって歩き出す。ダンデもすぐ後ろをついて来た。

 そうして二人は路地へと入る。狭い路地はほんのりと薄暗く、傘をさしたまま二人並んで歩くのは難しい狭さだった。


 進んで行くと、ちょうど真ん中ほどの壁際に、段ボールが置かれているのが目に入る。

 段ボールは雨に濡れたためか、少しくたっとなっていた。

 近付いて中を覗くと、そこには一匹の黒い仔犬が入っていた。ポメラニアンのようにふわふわな毛並みをしている。


「やっぱりわんちゃんですの」


 五十鈴はしゃがんで顔を近付ける。

 仔犬は突然現れた大きな生き物たち(五十鈴とダンデ)に怯えることもなく、お利口に座ったまま、五十鈴を見上げて尻尾を振っていた。

 この人懐っこさと、段ボールの中にいるという状況から考えると、捨て犬に間違いないだろう。


「……捨てられましたか」


 立ったままのダンデが、仔犬を見下ろしながら静かに言う。


「……ひどいことをしますわ」

「そうですね。ですが、どこにでもあることです。ちっぽけで、弱くて汚いものなんて、すぐに捨てられてしまいますから」


 彼の口から放たれたのは、普段のダンデの様子とはかけ離れた冷たく淡々とした声だった。

 けれど仔犬を見下ろすダンデの瞳は、憐れむような色も宿っていた。

 彼は複雑で、それでいてわずかな苛立ちの混ざった眼差しを仔犬へ向けている。


「行きましょう、お嬢様」


 ダンデは仔犬からスッと目を逸らし、踵を返す。

 ――しかし。


「こうしてはいられませんの! すぐにお医者様に診ていただきましょう!」


 ほぼ同時に五十鈴は仔犬へと手を伸ばした。

 そして何の躊躇もなく、ふわふわの体の脇に手を差し込むと、そっと抱き上げる。

 するとダンデが驚いた様子で振り返り、目を大きく見開いた。


「五十鈴お嬢様……連れて帰るのですか?」

「はいですの。このままですと風邪を引いてしまうかもしれませんし、それに――」

「……何故?」


 ダンデはさらに問いかける。

 普段であれば彼は五十鈴の言葉を遮って、被せるように物を言わない。ダンデにしてはずいぶん珍しい行動だった。

 そのことに五十鈴は少し驚いたものの、


「こうして縁が出来ましたもの。それに……きっとこの子は人の都合で捨てられた子ですわ。ですから放ってなんておけません」

「――――」


 ダンデの目が、さらに大きく開かれる。信じられないと言わんばかりだ。

 どうして、と彼の口が動いた。しかし声は出ない。

 二の句を継げない彼に五十鈴は首をかしげたものの、いつまでも路地で問答をしているわけにもいかない。


「ひとまず動物病院へ行きましょう、ダンデさん!」

「あっ、は、はい……」


 五十鈴が促すと、ダンデは困惑しながらもこくりと頷いたのだった。


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