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異形頭のダンデライオン ~異形の『美味しそう』なお嬢様は人外執事のご主人様~  作者: 石動なつめ
第5節 お嬢様と異形の同僚

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#20 彼が異形頭じゃない理由


(それにしても、本当に執事さんになるとは思いませんでしたわ)


 カフェ・フロストを目指して歩きながら、隣を歩くダンデをちらりと見上げた。


 異界から戻った二日後にはすでに、彼は藤原家の執事として採用されていた。

 その日、朝目覚めた五十鈴が、寝起きでぽやぽやした頭のままリビングへ降りて行くと、とても良い笑顔の見知らぬ人がいた。その人がダンデの声で「お嬢様、おはようございます!」なんて挨拶してくれたものだから、五十鈴は思わず腰を抜かしかけた。


 まったく予想外のタイミングでわけの分からないことが起きた五十鈴は、それはもう混乱して、慌てて両親のところへ走って行くと、二人はさして驚きもせずに「そうだよー」と呑気に答えてくれた。そうだよ、ではない。


 一応簡単に事情を聞いたところ、どうやらカフェ・フロストのオーナーであるアルヴェアーレが何かしら手を回したようだ。五十鈴としてはもっと詳しい話を教えてもらいたかったのだが、両親に「まぁまぁいいじゃないか」とはぐらかされてしまった。ちっともよくない。


 それならばとダンデやアルヴェアーレに訊いてみたのだが、二人からも「企業秘密です」と語尾にハートでもつきそうなくらい優しい声で言われてしまって、結局のところ分からず仕舞いだった。


 大人達がそんな調子なので、恐らく子供の五十鈴には知らない方がいい話でもあるのだろう。だから五十鈴もそれ以上は追及をせず、そういうものだと思い込むことにした。


 さて、そんな調子で五十鈴の執事となったダンデだが、初日からずっとご機嫌だった。ずっと憧れていた執事についになれたのだと、いつ見てもルンルンである。先日スキップまでしているところを見た五十鈴は、軽く衝撃を受けながらも微笑ましく思ったものだ。


 そんなダンデだが、藤原家に来た時にはすでに異形頭ではなく、ごくごく普通の――と言うには顔が整い過ぎているが――人間の頭をしていた。さすがに不思議に思ったので訊いてみると「人前に出ますから、このくらいはね」と彼は言う。


「それにしてもダンデさん。護衛のためとは言え、校門前まで迎えに着ていただくのはさすがに目立ちますのよ」

「フフ、慣れでございますよ、五十鈴お嬢様。それに私、こういうのずっとやってみたかったんです。本で読んだ時から憧れがありまして……惜しむらくは車でお迎えが出来ないことでしょうか」


 そうは言いつつも、ダンデはやはりご機嫌だ。執事として仕事をすることが嬉しくてたまらないという様子である。

 その嬉しそうな顔といったら。ただでさえ整いすぎているのに、そこへ満面の笑みがプラスされれば、まるで歩く凶器である。すれ違う人々が振り返っては「うっ」「すばらし」「美しい……っ」などと苦しげなうめき声を発していた。


「ダンデさんが人間のお顔をしてらっしゃるの、やっぱりちょっとだけ不思議ですわねぇ」

「フフ、そう見えるだけでございますけどねぇ」


 ダンデは自分の顔を指差してにっこりと笑う。

 彼の言った通り、今見えている顔は本物のそれではない。ダンデの持つ異形の力で見せているただの『幻』なのだ。


 五十鈴はその話を聞いた時に、やはり半信半疑だった。そこでダンデから「触ってみますか?」と提案されて、好奇心に負けた五十鈴は指とつんとつつかせてもらったのだが、その時に指先に感じたのはつるりとした人の肌ではなく、ふわふわとした綿のような感触だ。

 そうして五十鈴は彼の言っていることが本当だと理解したのである。


「それにしても綺麗なお顔ですわねぇ」

「おや、お嬢様にそう言っていただけるなんて光栄です。頑張って調整した甲斐がありましたねぇ」

「調整ですの?」

「ええ。この力は基本的にイメージが重要でございますから。どんな顔にしたいかしっかりと練った上で『幻影』をかけているのですよ」

「あらまぁ」


 そういうものなのかと五十鈴は感心した。なるほど、それだけじっくりと作り上げたものであるなら、周りから歓声が上がるほどに整うのも頷ける。


「ダンデさん、頑張ったのですね! 素晴らしいですわ!」

「……っ!」


 五十鈴が褒めると、ダンデが目をカッと見開いた。

 続いて彼の瞳からツーッと涙が零れ落ちる。


「初めて……初めてこれで他人から……褒めていただいた……っ!」

「な、泣かないでくださいまし!」


 成人男性が急に泣き出したものだから、五十鈴はわたわたと焦って、急いで鞄からハンカチを引っ張り出す。そしてそれをダンデへと差し出した。


「申し訳ございません、嬉しくて……っ! ああ、なんてお優しい……お嬢様の執事になって良かった……」


 ハンカチを受け取った彼は、ぐすぐすと鼻を鳴らしつつそう言った。何やらいたく感謝されているようだが、彼はまだ五十鈴の執事になって一週間も経っていない。ダンデが喜んでくれているのは良いとしても、彼の主人として五十鈴としては何もしていないので、何だか申し訳なくもなってきた。


(執事さんにお願いする仕事がどんなものか、今度、おじい様やおばあ様に訊いてみましょう)


 そんなことを考えながら五十鈴が歩いていると、あっという間にカフェ・フロストの建物が見えてきたのだった。


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