第七話「誰もいない部屋」
部屋は、前より散らかっていた。
コンビニの袋。
空のペットボトル。
脱ぎっぱなしの服。
どれも、いつからそこにあるのか分からない。
スマホが震える。
机の上で、何度も。
でも、もう見ない。
見なくても分かる。
同じ内容。
同じ言葉。
同じ終わり方。
「……うるさい」
そう言っても、音は止まらない。
数分後。
震えが止む。
静かになる。
でも、その静けさの方がしんどい。
何も来ない時間。
誰からも連絡がない時間。
それが一番、きつい。
スマホを手に取る。
自分から開く。
通知は、溜まっている。
でも、開きたい名前はない。
大地。
スクロールする。
一番上には、昨日のやり取り。
『ほんまに?』
『ほんま』
それで終わっている。
そのあと、何も来ていない。
既読もつかない。
「……終わったか」
小さく呟く。
実感はない。
でも、分かる。
もう、向こうからは来ない。
自分から送れば、返ってくるかもしれない。
でも。
「……無理」
何て送る?
謝る?
遅い。
本当のこと言う?
無理。
結局、何もできない。
スマホを置く。
部屋が静かすぎる。
テレビをつける。
でも、すぐ消す。
内容が入ってこない。
その代わりに、頭の中はうるさい。
・借金
・督促
・大地
・仕事
全部が、同時に浮かぶ。
でも、どれも考えたくない。
「……寝よ」
逃げるみたいに、布団に潜る。
目を閉じる。
でも、寝れない。
頭の中で、音がする。
ブーブー。
実際には鳴っていないのに。
ずっと鳴っている気がする。
「……はぁ」
呼吸が浅くなる。
このまま全部止まればいいのに。
一瞬、そう思う。
でも。
腹が鳴る。
現実に引き戻される。
「……金ないか」
起き上がる。
財布を見る。
空。
スマホを開く。
銀行。
1,302円
「……終わってる」
でも、その言葉にもう重みはない。
ただの事実。
そのとき。
スマホが震える。
画面を見る。
職場から。
心臓が少しだけ動く。
出るか迷う。
出ないとまずい。
でも、出たくない。
数秒後。
出る。
「……もしもし」
『今日、シフト入ってるよね?』
その一言で、思い出す。
今日、仕事だった。
「……体調悪くて」
また嘘。
もう、迷わない。
『最近多くない?』
声が少し冷たい。
「すいません…」
謝る。
中身はない。
『これ以上続くなら、ちょっと考えるから』
その言葉で、少しだけ現実が戻る。
仕事。
収入。
でも。
「……はい」
それだけ。
深く考えない。
通話が切れる。
また静かになる。
数秒後。
「……行こ」
小さく呟く。
理由はない。
いや、ある。
全部から逃げるため。
財布は空。
でも、頭は動いている。
・まだ使える枠
・借りれる場所
・少額でもいける手段
「……ちょっとだけ」
また同じ言葉。
玄関を出る。
部屋の電気は、そのまま。
戻る気がないみたいに。
外は、いつも通りの夜。
何も変わっていない。
変わったのは、自分だけ。
誰もいない。
頼れる人も。
止めてくれる人も。
「……まぁええか」
小さく笑う。
その顔は、もう少し前とは違っていた。
——その夜、さらに底に近づいた。




