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『依存と恋のあいだ』第一章 「やめられない夜」  作者: こうた


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第六話「貸した金と残ったもの」

夜。

いつものコンビニ前。

街灯の下で、大地は先に立っていた。

「……来たんや」

小さく言う。

驚きはない。

来るって分かっていた顔。

沙紀は少し距離を空けて止まる。

近づけない。

「話あるんやろ」

先に言う。

主導権を取りたいみたいに。

大地は少しだけ頷く。

「ある。でも、その前に」

一歩近づく。

「沙紀からちゃうん」

その言い方で、全部見透かされてると分かる。

「……別に」

視線を逸らす。

「金、足りてないんやろ」

まっすぐ言われる。

逃げ場がない。

一瞬で、心臓が速くなる。

「……なんで」

弱く返す。

「分かるやろ」

それだけ。

嘘を重ねてきた分、もう隠しきれない。

沈黙が落ちる。

言うか。

言わないか。

ここで言えば、借りられる。

でも、その代わりに何かが壊れる気がする。

でも。

「……ちょっとだけ」

口が勝手に動く。

「どれくらい」

「……3万」

とっさに出た数字。

本当は足りない。

でも、少なく言えば軽くなる気がした。

大地は少し考える。

ポケットに手を入れる。

財布を出す。

その動きだけで、胸がざわつく。

「なんに使うん」

答えられない。

「生活費」

すぐに出る嘘。

「ほんまに?」

視線が刺さる。

「……ほんま」

目を逸らしたまま言う。

一瞬の沈黙。

大地は財布からお金を出す。

一万円札が三枚。

その瞬間。

胸の奥が軽くなる。

——助かった。

その感覚が、先に来る。

「ありがとう」

反射的に言う。

でも、その言葉は軽い。

自分でも分かる。

大地はお金を渡さず、少しだけ手を止める。

「これで最後な」

その一言で、空気が変わる。

「ちゃんと終わらせるために使えよ」

“終わらせるため”。

その意味が、重く乗る。

「うん」

すぐに頷く。

考えてない。

ただ、その場を通すための返事。

大地はゆっくりお金を渡す。

手に触れる。

少しだけ温かい。

その温度が、妙にリアルだった。

「ほんまに最後やで」

もう一度、念を押される。

「分かってる」

また、嘘。

数時間後。

沙紀は、店の中にいた。

さっきと同じ椅子。

同じ光。

同じ音。

手の中には、大地から借りた金。

「……ちょっとだけやし」

小さく呟く。

言い訳は、いくらでも出てくる。

・少し増やして返せばいい

・3万ならすぐ取り返せる

・むしろ増やした方がいい

全部、いつものやつ。

でも。

“今回は違う”って、どこかで思っている。

コインを入れる。

回す。

その瞬間。

少しだけ、迷いが消える。

大地の顔が、頭をよぎる。

「……あとで返すし」

その言葉で、押し込める。

結果は、早かった。

当たらない。

回す。

外れる。

回す。

外れる。

「……まだいける」

でも、すぐに残高が減る。

1万。

2万。

「……あと一回」

止まらない。

3万。

全部、消えた。

席を立つ。

頭が真っ白。

何も考えたくない。

でも、分かっている。

やったこと。

壊したこと。

外に出る。

夜風が、冷たい。

スマホを見る。

大地からメッセージ。

『どうやった?』

短い一文。

それだけで、胸が締まる。

返せない。

何て言う?

「ありがとう。助かった」

違う。

「ちゃんと使った」

嘘になる。

どれも無理。

しばらく画面を見つめる。

そして。

「助かった」

それだけ送る。

嘘じゃない。

でも、全部嘘だ。

既読がつく。

少しして、返信。

『何に使った?』

止まる。

心臓が速くなる。

「生活費」

送信。

一秒。

二秒。

既読。

返信は、すぐ来なかった。

その“間”が、きつい。

しばらくして。

『ほんまに?』

その一言で、全部バレていると分かる。

「ほんま」

もう一度、嘘を重ねる。

そのあと。

返信は来なかった。

画面を閉じる。

胸の奥が、少しだけ痛む。

でも。

その痛みより先に、別のことを考えている。

——次、どうする?

関係は、まだ切れていない。

でも。

確実に、何かが終わった。

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