その2:2026年2月16日月曜日・G県N市駅前「台湾酒場」③
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普通盛り詐欺なAランチをぺろりと平らげ、さらに苦戦中のカレンの唐揚げまでお裾分けしてもらい、 2杯目の生中で食後の喉を潤すアイラ。
その様子に、半ば呆れつつ「もうお腹いっぱい……」と大きく息を吐くカレンは、食事の油っぽさを中和するようにウーロン茶を飲んでいた。
「いやー、やっぱりここのランチの満足感は駅前No.1だな。」
「フフ。私には、ちょっと多すぎだけどね。」
大満足の笑顔を浮かべるアイラに、優しい呆れ笑顔で返すカレン。時刻は12時40分09秒。アイラの2杯目のビールも残り半分となり、そろそろ3杯目を注文したい――そんなタイミングで、カレンはスッと笑顔を引っ込め、場の空気を切り替えるように真顔へと表情を変えた。
「それで、アイラ。本題は?」
その一言が、二人の間に「ここからは仕事時間です」というスイッチを入れた。
それに応じるように、アイラも手に持っていた中ジョッキをテーブルに置き、ほろ酔い顔のまま、しかし確かに“仕事の顔”へと表情を変えていた。
◇◆◇
2026年2月16日10時。G県N市・新町付近の喫茶店「寄合館」で、N市駅職員・兵藤ユウジから聞いた話と、彼から受けた依頼の内容。それをアイラは手短にまとめ、カレンへと伝えた。
2026年に入ってわずか2ヶ月で3回発生した飛込事故。そのうち一つを現場近くで目撃した兵藤ユウジが抱いた“違和感”。
――自ら飛び込む意思がある者とは思えない、駅構内での立ち位置。
――誰かに押された事実はないのに、まるで押されたかのように振り返りながら落ちていく被害者たち。
「なあ、カレン。 すべてではないにしても、駅から電車に飛び込む人ってのはホーム中央じゃなくて、まだ電車にスピードがある側――N市駅の上り線なら、改札から向かって右側、11両目が止まる端の方にいるはずって話。これ、本当にそういうものなのか?」
アイラは、ユウジから聞いた“自分では判断できない部分”をそのままカレンに投げかけた。 カレンは腕を組み、小さくコクコクと頷く。
「そうね。すべてではないにしても、そういう傾向があるって話は聞いたことあるかな。」
カレンの言葉を聞き、ユウジの説明がようやく腑に落ちたアイラは、彼から話を聞いたときよりも強く、コクッ、コクッと頷いた。その様子に、カレンは「なるほどね」と含みを浮かべる。そしてもう一つ。 アイラから聞いていた“幽霊の仕業”という言葉へと、話は続いていった。
「被害者を押した人はいない。でも、誰かに押されたかのように落ちていく。兵藤さんという方が近くで見ていたのだから、その様子は間違いないとして…… “見えない何か”に押されて転落したのでは? か……」
カレンはそこで一度言葉を切り、静かに続けた。
「心当たりは無いとは言わないけど、関係は無いでしょうね。」
「心当たり無いとは言わないって……何かあったのか?」
「まあ、以前にちょっとね。でも、それはもう終わったことだし、この事故とつながるような動機も全くないはずよ。」
何かを思い出したように言い、ふう、と一つ息を吐くカレン。 心理カウンセラー・黄泉野カレンの過去の依頼人の顔と、その行動。 良し悪しはどうであれ、あれは“そのときだけで完結した話”だ。
「とにかく、飛び込む人の立ち位置がおかしいって話は、カレンも同じなんだって分かった。 じゃあさ、“見えない何か”っていうのは……」
「これが何かはわからない。現時点ではね。」
カレンは淡々と、しかし何かしらの重みを持って言った。
「でも、この短期間で同じような場所から三人も転落しているのは確かにおかしい。 “見えない何か”という話が出てくるのも……まあ、全くおかしくない話だと思う。アイラ。ちょっと時間もらっていいかな。 過去にN市駅で、今起きているような事故につながりそうな出来事がなかったか、少し調べてみる。」
その言葉を待っていたかのように、アイラはニヤリと笑みを浮かべた。
「助かるー! さすが俺の頭脳、神様仏様カレン様だぜ!」
実はアイラ、最初からこれが狙いで彼女に電話をしていたのだ。 兵藤から“線路に飛び込む人の立ち位置”の話を聞いたとき、アイラ自身はコクコク頷いただけで、その場では確証を持てていなかった。 だからこそカレンに聞き、彼の話の整合性を確認していたのである。
「もう。私はアイラの頭脳じゃないし、神様でもありません。 でもまあ……仏様は合っているわね。」
真剣に話していたカレンの目に、わずかな笑みが浮かぶ。 二人の間に漂っていた“仕事の空気”が、少しだけ和らいだ。そしてカレンは、もう一言付け加えた。
「それに、お互い様でしょ。 私も腕力のいる仕事はいつも―― 戦神様、修羅様、アイラ様にお願いしてるんだから。ねっ♪」
二人はお互いどこか含みを持たせる言葉を投げ合い、 フフフ、と笑い合うのだった。




