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G県N市連続電車飛込事故について:「謎を解かない系探偵」原アイラはぶん殴る!  作者: 井越歩夢


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その1:2026年2月16日月曜日・G県N市新町交差点「寄合館」④

=4=


G県N市。この街には、有名な“見える人”が二人いる。


一人は坂ノ上エリカ。占い師であり、祈祷師でもある霊能者。

そしてもう一人は尾作マサヤ。普段は心霊ライターをしているが、自身も高い霊感を持つ霊能者として知られている。


だが、この二人以外にも“見えているのではないか”と噂される人物が市内には二人いる。


一人は、駅前でヨミノカウンセリング室という心の相談室を営むカウンセラー、黄泉野カレン。

そしてもう一人は、カレンの友人である自称探偵――実質は御用聞きの何でも屋、原アイラ。


彼女たちについては、あくまで“見えているらしい”という噂であり、その真相は明らかではない。これを二人とも否定しているのだが、それでも“どこか人間離れした雰囲気がある”という理由から、噂はまことしやかに囁かれ、市内に広がっている。


兵藤ユウジの話を聞いたアイラは、彼の抱く「違和感の正体」について、あくまで現実目線で調べると釘を刺したうえで依頼を引き受けた。


現実目線とは言ったものの、市内で有名な霊能者・尾作マサヤから紹介されたとなれば、“アイラには見えている”と期待されるのも無理はない。


マサヤからは「ちょっと話を聞いてやってくれ」程度の軽いノリで頼まれていた。 だが、ふたを開けてみれば――実質、幽霊調査である。


それに気付いてからのアイラの思考は、「あのおっさんあのおっさんあのおっさん」 と恨み節が渦巻いていた。そんな中でもよくもまあ最後まで兵藤ユウジの話を冷静に聞き、依頼を引き受け、彼を見送ったものだと、アイラは自分を心の中で褒めていた。


◇◆◇


「フフフ、アイラちゃんお疲れ様。ふっふっふ……」


「あー、ミドリさん、いい加減笑うのやめてくれよー。仕事なんだからさー。」


ユウジの会計を済ませて彼を見送り、店内に二人きりになったアイラとミドリ。

アイラはテーブル席からカウンターへ移動し、二人はいつもの“カウンター越しのポジション”に戻っていた。


“俺”ではなく“私”と言い、穏やかで丁寧なお仕事口調で話すアイラ。その様子があまりに普段の素と違いすぎて、ミドリの目にも耳にも可笑しく映ったらしい。

ユウジとの会話の中で一瞬素が出かけたときには、それがツボに【ズンボ】と大はまりし、笑いが止まらなくなって厨房へ逃げ込んだほどだ。


「あははは……さすが“三色の声を持つ女”ね。普段、仕事、プライベート、歌で全部声も口調も使い分けてるんだもの。でも仕事モードのアイラちゃんは初めて見たから、いつもと違いすぎて……もう絶対、明日腹筋筋肉痛だよ。」


腹をさすりながら笑うミドリの様子に、アイラは参ったなと苦笑いを浮かべた。


「それにしても、ちょっと聞こえちゃってたけど……あの駅の事故の目撃者かぁ。」


「なんだかさ、前の通り魔事件以降、市内ではしばらくニュースになるような事故とか事件なかったじゃん。 こういうので名前が知れ渡るのって、何というか……嫌なもんだよなぁ……」


アイラはそう言いながらコーヒーを飲み干し、ほっと息を吐いた。


「なあ、ミドリさん。電車に飛び込む人って、どこを見てると思う?」


アイラの質問に、ミドリは腕を組んで少し考える。そして、


「んー……あの世?」


おいおい……まあ、そうかもしれないけど、予想を飛び越えていってるじゃん。 いや、俺の聞き方が悪かったか? キョトンとしているミドリの様子に、アイラは思わず苦笑いを浮かべた。


◇◆◇


2026年2月16日が月曜日であることを、アイラはありがたく思っていた。


現在時刻は11時30分。寄合館を出た彼女は、冬のそれとは明らかに変わりつつある日差しの感触と、冬の名残を抱えながらも春の訪れを予感させる強い風を感じつつ、早速と言わんばかりにスマートフォンを取り出し、連絡先を開いた。


今日は“アイツ”の休みの日。 いいタイミングだ。

彼女は“アイツ”の電話番号をタップし、スマートフォンを左耳に当てる。呼び出し音が【トールルルル・トールルルル】と6回。

6回目のコールの1/3ほど鳴ったところで、通話が繋がった。


「あ、もしもし。俺だけど――今日会えないか? ―――そうだなぁ、じゃあ台湾酒場のランチでどうよ? ―――まあいいじゃん、休みなんだろ? ――――OK、じゃあ台湾酒場前12時な。それじゃまた後で。よろしくー。」


要件だけを伝える短い通話。

ここで“本題”を話し始めれば長くなるし、そもそも通話相手は長電話が苦手だ。いつもならメールでやり取りするのだが、今日は月曜日。通話相手の彼女は月曜・火曜休みなので、手っ取り早さを重視してアイラは“あえて通話”を選んだのだった。


アイラはスマートフォンをポケットに戻し、ふう、と一呼吸置く。


寄合館前の新町交差点から駅前の台湾酒場までは、徒歩5分もあれば余裕で着く。 時間つぶしも兼ねて、少し大回りして歩こうと、アイラは駅とは反対方向へ歩き始めた。


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