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G県N市連続電車飛込事故について:「謎を解かない系探偵」原アイラはぶん殴る!  作者: 井越歩夢


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その5:2026年3月16日月曜日・G県N市新町交差点「寄合館」④

=4=


「何ですかその話!!酷いです!!」


彼女の言葉には、カーブもシュートもフォークもない。

常に直球であり、そのスピードもプロ野球選手顔負けなほどの言葉の剛速球。


その持ち主は、アイラの仲間の中でも異彩を放つ、強い正義感と弾ける若さ、そして誰もが【ズドォーン】と打ち抜かれる可愛さが際立つ心理カウンセラー、真城ナミ24歳。

ヨミノカウンセリング室に勤め始めて2年目の新人カウンセラーである。


2026年3月17日火曜日18時30分。

陽も長くなり、まだ空は薄明るく、西の山際には僅かに夕焼けの名残が見える。そんな中、アイラは友人である2人と夕食と至福の一杯を楽しんでいた。その場所はもちろん、G県N市新町交差点・BARアムリタである。


3人は珍しく窓際のテーブル席に座り、窓の外から見える通りの風景を見下ろしながら各々の至福の一杯――

アイラはビール、カレンは“いつもの赤”、ナミはコスモポリタンを楽しみつつ夕食を取っていた。


そしてここで始まったのが、「G県N市連続電車飛込事故の顛末について」だった。


アイラは依頼人である兵藤ユウジへの報告内容を、カレンは小山ジョウジロウの面談と、彼が死を受け入れて旅立ったことを報告する。そして二人の話を聞いたナミは、この事故の経緯を聞き――


「何ですかその話!!酷いです!!」


と、プロ野球選手顔負けのストレートな言葉を【ズヴァァーン】と投げたのだった。


◇◆◇


ナミがそう言う気持ちを深く理解しているカレンと、その理由をカレンから聞いているアイラ。この一カ月、二人が関わってきた一連の出来事を彼女が聞けば、こういう反応になることは明らかだった。


それはナミ自身も、その正義感が災いし、酷いいじめに遭った過去を持っているからだ。


ご立腹な様子のナミを、まあまあ、と落ち着かせるアイラとカレン。

「相変わらずだな」と苦笑いするアイラと、「まだまだね」と苦笑いするカレン。

若いナミを見る二人の苦笑いには、それぞれ違った思いが含まれていた。


ナミはコスモポリタンの注がれたグラスをグイッと飲み干すと、カウンターの向こうにいるBARアムリタのマスター、柴山アオイに声をかける。


「アオイさん、すみませんー。プーチンカお願いします!」


アイラの友人・仲間の中でも群を抜いて“酒豪”なナミ。

アルコール度数の高いウォッカの中でも、口当たりがよく飲みやすい一品、プーチンカを頼むと、まだどこかムスっとした顔をしながら両頬杖をつき、【スゥゥ】っと視線をテーブルに落とした。


「時々依頼者さんからもそんなお話を聞きますが、未だにそういう会社があるんですね。」


「そうね……世間はライフワークバランスとかいろいろ言うけれど、大多数はまだまだ古い文化が染みついたままだったり、問題のある社員への対応をなあなあにしている間に、真面目に働いている社員さんが疲弊していくというのは……」


ナミの言葉にそう言って“いつもの赤”に口を付けたカレン。いつも心に傷を負った、「悪気」に晒され病んでしまった人の話に寄り添っている二人からすれば、溜め息の尽きる日はいつの日かと、遥かどこかまで【ピィーン】と遠い目をするような気持ちになる。


そんな二人の会話と様子を、ビールを煽りながら静かに聞いているアイラ。


「世の中ではいろいろ叫ばれているけど、でも長く続いたそれはそうそう変わらないし、組織が変わろうとしても人が変わらなければ、何であれ根本的には変わらない。会社であれば様々なハラスメント、学校でいればいじめ。どれも撲滅は難しい。それでも、世間一般の大多数が言う“いい人”が正当に評価される社会になることを願いたいものね。」


カレンはそう言いながら、傍らに置いていたバッグに手を伸ばし、そこから茶封筒を一つ取り出すと、それを【スゥーッ】とアイラの前に差し出した。


「アイラ。ひと仕事終わったところで悪いけど、私から“ひと仕事”お願いできるかな。」


差し出された長形3号の茶封筒。それを受け取ったアイラと、カレンの真剣な眼差しが【グヴォーン】と絡み合う。その様子を同じテーブルで見ていたナミ。


そんな二人の空気を見た彼女の表情は、さっきまでのムスッとしたものから【パァァァァァ】と明らかに明るい笑顔へと変わっていた。


◇◆◇


渡された封筒を丁寧に開け、その中から3つ折りにされたA4サイズの紙1枚を取り出すアイラ。

普段カレンから仕事を貰う時は、もっぱらメールでのやり取りなのだが、今回こうして手渡しされるのは、きっとナミへの配慮と、“私たちが動く”という意思表示なのだろう。

そんなことを思いながら、紙を開き、それに【スラララララララ】と目を通すアイラ。


《伊藤マサヒコ。G県N市在住45歳。会社員、㈱〇〇〇営業部長――》


そこに書かれていたのは、ある人物のとても細かな個人情報だった。その内容は、いつどこでどう調べたのかと言いたくなるほど詳細で、出身地、学歴、経歴、趣味嗜好、取得資格、行動範囲とその癖――


普段はフランクな付き合いをしているアイラとカレンだが、アイラ29歳(仮)、カレン34歳(仮)と、カレンの方が少し年上だ。

アイラはそんなカレンのことを、とても優秀だが、ある意味“怖い先輩”と思っている。

それは、この“普通では考えられない個人情報の収集力”だ。


だが、これのおかげで標的となる人物を見つけやすくなるため、

仕事をもらっている身としては、とてもありがたく思っているところもあった。


ただ、仕事の依頼であるはずのこの紙には、「何をすればいいか」という最も大事な部分が欠けていた。だが、アイラはそれをすでに理解し終え、ニヤリと笑みを浮かべる。その笑みには、“その仕事に向かう高揚感”がにじみ出ていた。


「それで、カレン。この仕事、どこまでやっていいんよ?」


「滅しなさい。」


即答だった。その間、0.00000001秒。“間がある”と言うべきか、“無い”と言うべきか――そんな即答だった。


カレンの言う「滅しなさい」。

それは、カレンがアイラに仕事を依頼するときの“最上級の仕置”を意味する。

すなわち――思い切りぶん殴れ!という意味なのだ。

そしてカレンから仕事を受ける際、アイラはいつもこの言葉を待っている。

カレンの言葉に、【イヒ】と、アイラはにんまり笑顔を浮かべた。


「うーん、過激なお言葉ありがとう。それじゃ、この仕事、思いっきりやってくるぜ!」


“この仕事受けた!”と力強い返事をするアイラに、笑顔で応えるカレン。

そしてその隣で「やった!」と笑顔で思わず両手を上げるナミ。

カウンターの向こうでは、柴山アオイとシンジュの二人も、その様子を笑顔で見ていたのだが――


「アイラ、力加減はほどほどに。周囲の物を壊さない程度で頼むよ。」


アオイの一言に、思わず苦笑いを浮かべるしかないアイラだった。


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