表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
G県N市連続電車飛込事故について:「謎を解かない系探偵」原アイラはぶん殴る!  作者: 井越歩夢


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/26

その4:2026年2月27日金曜日・G県N市駅「午前8時05分00秒」 ②

=2=


「まもなく1番線に名古屋行きの電車が参ります。黄色い線の内側までお下がりください。」


到着前のアナウンスがホームに流れる。時刻は8時4分。定刻通りなら、あと1分で電車はN市駅に到着する。


アイラは5両目の乗車位置表示付近に立ち、【ピィィィィィン】と意識を研ぎ澄ませた。周囲の“この世の感触”と“あの世の感触”を同時に捉えながら、ホーム迫り来る電車を待つ。


彼女の集中は、周囲を見回すというより、自分を中心に半径1.2mの見えない網を張り巡らせているかのようだった。もちろんそんなもの、今ホームで電車を待つ世間一般の大多数の人々には見えもしないし、気付くこともできない。


これに気付ける者がいるとすれば――

アイラの友人たちの中でも、BARアムリタに集う数名か、あるいは今ここにいるとは思えない彼女の“同族”くらいのものだ。


東側から電車が駅に進入してくる。あと数秒もすれば、電車はアイラの立つN市駅改札口のほぼ正面――ホーム中央部の5両目乗降位置に到達する。


――そのときだった。


アイラは、明らかに“それまで背後には存在しなかった”この世ならざる者の気配がその場に【スゥゥゥゥン】と小さな波を立てて現れるのを強く感じ取った。


(来たか!)


だが、彼女はまだ動かない。そのままの姿勢で、微動だにせず、ただ“待つ”。


そして――


【トントントン】


右肩を軽く叩く、“この世のものではない感触”。


それにアイラは即座に反応した。両腕を動かすことなく、この世の者にも、あの世の者にも滅多に見えない“手”を使い、肩を叩いたその手を【ガシィン】と掴む。


【ビーックリィ】と一瞬大きく震えたその手を離さぬまま、アイラはゆっくりと後ろを振り返り、青い瞳の鋭い視線を“それ”へ向けた。


――が。


その視線は、次の瞬間ふっと緩み、アイラは小さく息を吐いた。


「……なるほど、そういうことか。」


アイラはその一目で、「G県N市連続電車飛込事故」の真相と、この事故が“今日で終わる”ことを確信し小さく呟いた。


その瞬間、電車はアイラの立つ5両目乗降口を通り抜け、いつもと変わらぬ朝の雑多な空気の中、ゆっくりと停車し、乗降扉が【プシュァーン】と音を立てて開いた。


◇◆◇


『おい、大丈夫か?』


口を動かすことなく、アイラは肩を叩いた“この世のものではない男性”に声をかけた。

見た目は30代ほど。きっちりした服装のはずなのに、どこかだらしなく着崩れている。整えられているのにボサボサにも見える髪。そして何より――その様子は、明らかに過呼吸だった。


空気を掴むように開閉する口。息が追いつかず、肩が小刻みに上下している。

アイラの肩に置かれた手は震え、視線はホームの床に落ちたまま動かない。


『ハッ……ハッ……ハッ……ハッ……』


(これはちょっと良くないな……)


苦しそうな彼の状態。そして、すぐ目の前には開いたばかりの電車の扉。このままここにいては危ない。


アイラは、どの周囲からも見えない“3本目の手”で掴んでいた彼の手をそっと離し、素早く肩を貸すと、乗降口から左へ逸れ、建物寄りのベンチへと彼を連れていった。


乗降口の列は規則正しく、しかし雪崩のように動き出し、人々は電車の中へ吸い込まれていく。その流れを背に、アイラは男性をゆっくりとベンチへ座らせた。彼は右側へぐったりと首を傾けている。


『ゆっくりで大丈夫だから、落ち着こう。ここで座っていれば大丈夫だ。』


アイラは静かに声をかけた。男性はうなずく余裕もなく、肩を震わせたままだが、

それでもアイラの声はどうやら彼に届いているようだった。


『ゆっくりな。急がなくていいからさ。ゆっくりでいいから。』


背中にそっと手を添え、普段の口調に少しだけ優しさを混ぜて語りかけるアイラ。

男性の呼吸はまだ乱れているが、しばらくするとその震えは、ほんのわずかながら落ち着き始めていた。


◇◆◇


ベンチに座り、ホームの喧騒が二度入れ替わるほどの時間が過ぎた頃、ようやく彼の呼吸は静かなリズムを取り戻し始めた。

その変化に気付いたアイラは、ふう、と小さく息を吐き、背中に添えていた手をそっと離した。


『だいぶ落ち着いたみたいだな。』


声をかけると、彼は【ブン! ブン!!】と大きく首を縦に振り、初めてアイラの方へ顔を向けのだが、その様子を見たアイラは思わず表情を引きつらせ、ほんの少しだけ身を引いていた。


『あ、ありがとうございました。助かりました。』


彼は一言で言えば“土気色で表情に乏しい”。だが、もとは良さそうな好青年――

いや、青年と呼ぶには少し年齢がいっているかもしれないが、精悍さを残したまま、意気だけを失ってしまったような顔つきだった。


ここからアイラは、彼にいろいろ聞かなければならない。だが、あまり緊張させて再び過呼吸になられても困る。とはいえ、どうしても確認しなければならないことがある。


彼は、自分の“今の状態”に気付いているのか。そして――なぜ、ここにいるのか。


しかし。


(これはどうしたらいいんだ? くっそー、こういう時、カレンがいてくれたら助かるのに!)


心の中でそんな弱音を吐きつつも、今ここにいるのは自分ひとり。


(ええい、どーにでもなれーっ)


腹をくくったアイラは、自身が苦手とする“会話での解決”に挑むべく、隣に座る“この世のものではない彼”へ声を投げかけた。


『俺は、原アイラ。アンタは?』


『……小山、小山ジョウジロウです……』


消え入るような小さな声で、男性はそう言い【グオン】と頭を下げた。


そして2026年2月27日、金曜日。「G県N市連続電車飛込事故」の真相は――

現実側の警察の捜査、駅の警備強化、そして非現実側のオカルト界隈の奇妙なざわめきをよそに、G県N市駅ホームのベンチに座る二人の会話によって、静かに明かされようとしていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ