その4:2026年2月27日金曜日・G県N市駅「午前8時05分00秒 」①
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G県N市駅。10年前、首都機能が東京からT市へ移転して以来、このN市は“首都通勤圏”として絶妙な距離となり、朝晩の通勤時間帯の電車本数は大幅に増えた。以前は1時間に3〜4本だったものが、現在は10〜12本。朝6時〜9時のホームは、かつてののんびりとした雰囲気を知る年長者たちの目を疑わせるほどの混雑ぶりである。
しかし通勤時間帯を外せば、電車は1時間に5〜6本。首都郊外という位置づけになったとはいえ、世間が想像するほどの大きな変化はなく、今も変わらず“田舎感を残す、過ごすのにちょうどいい街”として、ゆるやかに時間を刻んでいる。
――この通勤時間帯の駅の様子を除けば、だが。
2026年2月27日、金曜日。現在時刻は7時30分。
春の足音が“駆け足”どころか、【うおおおおお!】と全力疾走で迫ってきたかのような、季節外れの暖かさ。駅前の外気温度計はすでに10℃を超えており、それは2月のN市としては異例の高さだった。
そんな中、黒革のライダージャケットに、今日はトライバル柄の薄手の白シャツ。ダメージジーンズにブーツというスタイルで交通系ICカードを使い颯爽と改札を抜ける、白髪ポニーテールの女性がいた。
周囲の大半がスーツにアウターというビジネススタイルの中、その服装だけでも十分に目立つ。ましてや、長い白髪は、この場では否応なく視線を集める。
(さて……とりあえず、“それらしき感”はまだ無しか。)
混雑したホーム。人の波に紛れた“この世側ではない人”の気配に意識を集中させながら、周囲を見渡すのは、N市在住の自称探偵、原アイラ。
だが、そこにいる数人の“この世側でない人”からは、彼女が探している“それらしきもの”は感じられない。
(……これは、少し待つことになりそうだな。)
そう判断したアイラは、改札口左側の壁際に立ち、その“時”が訪れるのを静かに待つことにした。
◇◆◇
2026年が始まって1ヵ月と13日の間に、同じ場所で起きた三件の事故。
某ネット掲示板に投稿され、注目を集めた短い書き込み 「G県N市連続電車飛込事故について」――どこか映画の題名のようなタイトルがつけられたその書き込みで、特に注目された一文。
「飛び込んだ人は三人とも、ホーム中央付近で電車を待っており、線路へ落ちる瞬間、驚いた表情で後ろを振り返っていた」
飛び込んだのはいずれも30代男性。彼らはホーム中央付近で電車を待っていた。 彼らがもし、そこへ自ら飛び込むことを決意した人だとするなら、これは不自然である。
ホーム中央ともなれば、電車はすでに大きく減速しており、本気でそこに飛び込み“あの世へ旅立つこと”を選ぶのであれば、速度のあるホーム端、あるいは最大速度の出ている適当な場所を探すはず。
そしてもう一つは、「驚いた表情で後ろを振り返っていた」という点である。
そこへ自ら飛び込む人が、そんな表情をして後ろを振り返るとは考えにくい。 つまり、事故に遭った人は“ホームから押し出されたのかもしれない”という推測が成り立つ。
(隔週、第2第4金曜日、8時05分発の電車が着くころに現れる何か)
アイラの友人である、黄泉野カレン、柴山シンジュの会話から導き出されたそれが、本当に今日、ここに現れるのか。腕時計を見ると時間は7時55分。そろそろだ。アイラはその場を離れ、事故現場となったN市駅ホーム、5両目乗降口付近の列に並び、その時を待つことにした。
アイラはスッと静かに目を閉じる。以前と同じくその瞬間、【ピィィィィィン】と張りつめた空気が彼女の周囲に走り、意識は空間認識と聴覚へと過集中していく。その状態を保ちながらスッと目を開け、再び周囲を見るが、どうやらまだ、それらしき感はまだない。
時計は8時。同時刻の電車に乗車する人々を見送り、アイラは今8時5分発の電車を5両目乗降口待つ列の先頭に立っている――




