その3:2026年2月25日水曜日・G県N市新町交差点「BARアムリタ」①
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2026年2月25日、水曜日。時刻は19時30分45秒。
ここしばらく晴天続きで空気は乾燥し、連日のように防災無線が火の元への注意を呼びかけていた。 そんな中、この日は久しぶりの雨。N市のどこかしこに、ちょうど良い湿り気を与えてくれる“恵みの雨”と言っても過言ではない、ある意味ではいい天気だった。
窓の外から【サラサラサラサ】と静かに響く雨音。 それを背景に流れるJAZZの音色が心地よく耳に馴染み、 二人は互いの“至福の一杯”を味わいながら、いつになく静かな会話を交わしていた。
BARアムリタ。 バーテンダー・柴山アオイと、バーメイド・柴山シンジュの二人が営む、市内唯一の本格BARである。N市駅前には居酒屋などの飲み処が多く、どこも毎夜賑わいを見せているが、その中でもアムリタは“静かにお酒を楽しむ人々”が集まる場所として知られている。どこから話を聞きつけたのか、遠方から訪れるファンも少なくない。
BARタイムには少し早い20時前。
この時間帯に好んでここへ足を運ぶ客が、4人いる。
市内の企業に勤める会社員・天野レイア。
ヨミノカウンセリング室の心理カウンセラー、黄泉野カレンと真城ナミ。
そして、街の御用聞き――自称探偵の原アイラ。
彼女たちはこの店の常連であり、バーテンダーの柴山アオイ、バーメイドの柴山シンジュ夫妻とは、長い付き合いの友人でもあった。そして今日は、原アイラと黄泉野カレンの二人が、駅前通りを見下ろせる窓際の席で、静かに互いの好きな一杯を楽しみながら、“仕事の話”をしているのだった。
◇◆◇
「いろいろ調べてみたけど、結論、何の成果も得られませんでした。」
カクテル“ユニコーン”に静かに口をつけながら、カレンがぽつりと漏らした。
常に沈着冷静で、どこか達観した雰囲気をまとっている彼女だが、このときの表情はわずかに不機嫌そうに見えた。その理由は、まさに今の言葉に集約されているのだろう。
「あー、そっか。まあ、俺も同じ。台湾酒場で別れたあと、すぐにN市駅へ行ってみたんだけど……その時は“何もなさそう”としか感じなかったなぁ。」
アイラもそう言って、ふう、と一息。大きさで言うなら“中の小”くらいのため息を吐いた。ロックグラスの“オールドファッションド”が、氷の音を【カランー】と鳴らす。
「“いるにはいる”んだよ。でもさ、そういうのではいないんだよな。」
「過去に“あるにはある”のよ。でも、今回につながりそうなものはなかったのよね。」
アイラもカレンも、ここ数日「G県N市連続電車飛込事故について」調べ続けていた。
だが、どちらも“これだ”という決定的なものは見つからず、「あるようでない」という半端な地点から先へ進めずにいた。
唯一わかっていることと言えば、2月13日・金曜日の三件目以降、幸いなことに同様の事故は起きていないということだけ。
「見えない何かが原因だとしたらさ……その“何か”はもう気が済んだからって、どっか行っちまったとか。」
「まあ、それもあるかもしれないね。たまたまここにいて、やることやって、はいさようなら……みたいに。」
「おいおい、カレン、言い方。」
そんな軽口のあと、二人はどちらともなく、そして申し合わせたわけでもないのに、寸分違わぬタイミングで【はぁー】とため息を吐いていた。




