第3話
フランソア侯爵邸に遊びに行った一週間後、今度はルシオの祖母にあたるアンティーク公爵夫人から、私達全員に舞踏会の誘いが来た。薄々感じてはいたけど、ギルと交際を始めてから色々な人に会う機会が多い。これも彼の人脈の広さなのだろう。
だが、アンティーク公爵夫人の舞踏会に参加となると、アイツがいるはずだ。
あまり乗り気ではない私にギルは言う。
「君が私の恋人だと知らしめるのに、いい機会だから参加しませんか。普段も美しいですが、着飾ったまた違う美しさを持つ君を見てみたいのです。駄目かな?」
なんてイケメンに上目遣いされてお願いをされたら了承するに決まっている。
「行こうか、ギル」
「ありがとうございます。嬉しいですね、君が私の隣に立つ事を想像すると。ドレスは新調しましょう。装飾品は、もし良ければこれを使っていただきたいのです」
ギルが見せてきたのは、目を引く深い青色の宝石が嵌った首飾りだ。
「これは?」
「私の亡き母が父との結婚式につけていたものです」
ギルは、言いながら大事そうに首飾りを手に取り、私の首に飾る。満足そうに眺めた後、頷きながら言う。
「うん、やっぱりよく似合う。さすがは私の恋人だ。君も思うだろう、リヒト?」
彼は私の後ろに向かって声を掛ける。振り返ると、柱の陰に隠れるようにして、私達のやり取りを見ていたらしいリヒトが、ばつの悪そうな顔で出てきた。
「リヒトも私の息子だから舞踏会に参加しよう」
ギルは笑顔を浮かべて言う。リヒトは気まずそうに立っていたが、私の顔を見ると頷いた。
舞踏会当日、知り合いが多いギルは会場に入った途端、色んな人から声を掛けられた。まずは、舞踏会の開催者アンティーク公爵夫人に三人で挨拶に向かう。
アンティーク公爵夫人とは、元親戚という関係だが、彼女は私とリヒトを笑顔で歓迎してくれた。
「バーバラ、あたくしの孫がすまないことをしたね。今度は幸せになるんだよ」
アンティーク公爵夫人は、皺だらけの手で私の手を握り締めて言ってくれた。夫人の隣に立つルシオを見ると、視線を逸らしていた。
貴様お祖母さんにこんなこと言わせるんじゃないわよ、と怒鳴ってやりたかったが、口が裂けても言えないので念を送るつもりで睨みつけた。
ふと、ルシオの隣に立つまだ少女の面影を残した女性を見つける。この間、言っていた縁談の話がある公爵令嬢なのだろう。今度こそは妻を幸せにして欲しいと心の隅で思う。
アンティーク公爵夫人へ挨拶が終わると、早速ギルに話し掛けてくる令嬢がいた。
「ギルバード様、そちらの方は?」
まずは私に挨拶をすべきなのだが、この令嬢、私を一瞥して何も言うことなく、ギルへと話し掛けている。見たところ、社交界には慣れているようなのでこの無礼は意図しての事だろう。
「これは、スタンディ伯爵令嬢。こちらはバーバラ、私の未来の妻です」
スタンディ伯爵令嬢は、私の頭のてっぺんから足の先までじろじろと見ると、心の底から納得出来ないというような顔でギルに詰め寄る。
「どうして私を選んでくださらなかったの、ギルバード様」
いかにも悲劇のヒロインというように、目に涙を溜めてギルに訴える。
それにしても、恋人である私の前でよくそんな事が言えるな……。肝が据わりすぎていて怖い。
ギルはそんな彼女に笑みを浮かべながら淡々と会話をする。
「私が愛しているのは彼女ですから。それ以外の理由なんてありますか?」
これは強烈な一撃だ。好きな人にこんな事を言われたら、私だったら泣き出してしまう。
「私の方がこの人よりも若いのに! 容姿だって優れています」
本人を目の前にして言える自信が凄い。肝据わりすぎてめり込んでいるのではないだろうか。
「年齢なんて関係ないですし、どうせ貴女もいつかは老いますよ。若さが取り柄だなんて今だけですから、中身を磨いてみては?」
ギルは食い下がろうとするスタンディ伯爵令嬢を一刀両断にする。
さすがに彼女もこれ以上は何も言えなかったらしく、泣きながらその場を後にした。
「あの人――ベロニカ・スタンディ――、昔からギル兄さまにご執心だったのよ。しかも、あの人の父親は娘に甘くて。住んでいる屋敷が古くて嫌だからって言っただけで、新しく屋敷を建てたくらい子煩悩なのよね」
伯爵家如きの資金でそこまで出来るのかしら、と毒を吐きながらやって来たのはシャルルだった。
「貴女も来ていたのね」
「当然よ、フランソア侯爵家の娘だもの。まだ結婚は出来ないけど、婿探しと将来の為の人脈作りよ」
まだ十歳なのに大人顔負けである。
「ま、わたしに釣り合う殿方なんてそうそう居ないと思うけど」
「シャルルは可愛いものね」
私がそう言うと、彼女は顔を真っ赤にした。
「可愛い!? あ、あんたにはわたしの良さがよく分かるのね!」
怒っているような言い方だが私には分かる。照れ隠しだと。
「可愛いし、教養もあって、品がある」
追い打ちをかけるように褒めると、シャルルはこれでもかというほど顔を赤くする。
「ほ、褒めても何も出ないから!」
シャルルは叫ぶように言うと、走って逃げて行ってしまった。




