12.決戦前夜
練兵場での最後の訓辞を終えた後、互いに何かを話している訓練兵の間を抜けて、相葉はさっさとその場を後にした。自分が生き残ろうと死ぬことになろうと、今会話した相手が戦闘後生き残っている可能性がどれほどある。ともに厳しい訓練を抜けてきたという連帯感を全く感じていないわけではないが、ここで妙な情を起こして感傷に浸っても仕方がないだろう。
そういう思いで歩いていると、通路の壁によりかかって久坂が立っていた。どうやら相葉を待っていたようで、こちらを見つけると「よっ」と片手を上げた。壁から背を離し、相葉と並んで歩き始める。
「いよいよ初任務だね。気分はどう?」
散々覚悟を煽られてきた後だというのはわかっているだろうに、久坂は気軽にそんなことを訊いてくる。相葉は軽く肩をすくめた。
「別に。どうということも」
「お、クールだねえ。死ぬ覚悟はある?」
これもまたあっさりと。頷こうか、と一瞬考えた相葉だったが、先日の筧の話と噂に聞く久坂の戦い方を思い出して、いや、と首を振った。
へえ、と久坂は目を細める。
「じゃあ、生き延びる意志は?」
「ある」
「――へえ」
いいねえ、と久坂は笑った。そうして軽く相馬の肩を小突く。
「そのくらいの根性ないと、いの一番に死ぬからね。いい心がけだよ」
久坂にこの話をしたことはない、と筧は言っていた。したことはないけれど、久坂は本能的にそのように生きている、と。
そうでなければ、今日まで生きていない、と。
「作戦決行は三日後。それが、少なくとも私たちに約束された最後の生きている時間なわけだけど……だからどうした、ってね。ま、お互いまた生きて会いましょう」
おどけるように、久坂は言う。
「まだまだいろいろ教えてもらいたいしね。分数の次は何を教えてもらえるのかな」
ん、と相葉は考える。小学校では分数の次は、何を習うのだろう。思い出せない相葉は、帰ってきたら思い出そう、くらいの気持ちで、
「それじゃあ、方程式かな」
と答えた。
「ほーてーしき? 何それ」
「計算式を解いて答えるんじゃなくて、式の一部の不明数を導き出すっていう式」
「んん? わけわかんないなー……」
本気でわからない顔で首を捻る久坂。まあ言ってる相葉本人が、自分が何を言っているのかわかっていないのだから無理もない。こういうのは習うより慣れろというか、実際にやってみた方がわかりがいいだろう。そもそも相葉自身、数学が得意というわけではないのだ。
ひとしきり首を捻っていた久坂だったが、まいっか、とあるところで割り切ったようで、顔を上げた。
「それは帰って来てから教えてもらうとして、さ。今日はこれから暇でしょ?」
「ん、まあ」
これから作戦決行までの三日間は、訓練もないからずっと暇だ。やり残したことのないように、というせめてもの計らいなのだろうが。
久坂のノリは、軽かった。
「それじゃあこれから、トランプでもして遊ばない?」




