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Blood/Bullet/Parade  作者: FRIDAY
弐 Bless/Breach/Bastard
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13/51

13.初陣

 作戦決行当日まで、結局相葉は大して何もしなかった。最後の夜に遺言書を書いたくらいだが、それは全員が書く決まりだ。もっとも、相葉はしばらく考えた後、結局何も書かなかったのだが。


 白紙だ。


 それは別に、必ず生きて帰るから遺言など必要ない、という強い意志の表れでも何でもなくて、ただ書くことが思いつかなかったというだけのことだった。聞けば他の皆はそれぞれそれなりに書いているそうで、他に何も書かないで置いていくのは筧と久坂くらいだと、トラックに乗るところで筧に笑われた。


 作戦場所まで兵士らを運搬するトラック。中からも外からも双方が見えない中で、それぞれに銃器を携えた者たちが物々しい顔で向かい合うように座っている。いつかどこかで見た形態だ、と思ったところで、以前高校で友人から借りたガンアクション映画の冒頭にこんなシーンがあった、と思い出す。


 高校、友人。もはやどちらも遠く、今では現実味すら希薄になり、あちらの方が夢だったのではないかとすら思われ、自嘲じちょうするように笑ってしまった。隣に座っている男に怪訝けげんな顔で見られ、何でもない、と首を振る。機関七課に取り込まれたときの手続きの上で、友人はおろか親族にすら、相葉は死亡したという風に伝えられていると言われた。社会的には、完全に相葉は故人なのだ。今更では、戻りたくても戻ることのできる日常はもう存在しない――そんなことをぼんやりと思いながら、車内で揺られる面々を見回した。


 年齢、性別ともにバラバラだ。相葉より幼いのではないかという者から壮年の兵もいる。男もいれば女もいる。それぞれについて詳しくなど知らないが、きっと年季も異なるだろう。相葉のような新兵もいれば、筧や久坂のような歴戦のつわものもいる。ただひとつ共通しているのは皆一様に酷く緊張した顔をしているというところだけで、気負いのない顔をしているのは自身の前に立てた長刀の柄に手を置いて無表情に瞑目する筧と、両腰に備える二丁拳銃をいつもの鼻唄混じりにチェックしている久坂、それに全員を見渡している相葉くらいのものだった。


「あ――あの、班長。質問いいですか」

 沈黙に満ちていた車内で、ふとひとりの兵士が手を上げた。


「何だ」

 瞑目したまま、戦国武将のような雰囲気を崩さず筧が応じる。はい、と頷いて質問を作るのは、青年だ。


「我々は全員、武器だけは渡されましたが、防具を何も支給されていません。これでは身を守ることができないのでは」

 相葉より少し年上であろう青年は、緊張のせいであろう青い顔のまま問う。確か彼は同じ訓練班にいたということを思い出した。つまりは新兵だ。そういえば先程からずっと、銃を握る手が小刻みに震えていた。


 確かに、この場にいる全員が、誰ひとりとして防具の類を身に着けていなかった。相葉のような新兵だけでなく、筧や久坂までもだ。久坂は初めて見たときと同じ、どことも知れない高校の制服を着ていた。後で聞いたところでは、それはただの久坂の趣味なのだという。いずれにせよ、防御力は皆無。


 ふむ、と筧は頷く。やはり目は開くことなく、

「訓練の際に教官から聞いていると思うが、まあいい。――我々の敵、超能力者の戦闘方法はそのまま、超能力だ。この意味がわかるか?」

 反問に、青年は答えられない。初めから待ってはいないようで、筧はすぐに自答した。

「防備など何の役にも立たないということだ」


 筧の言う意味。それは相葉にはよくわかっていた。

 既に目にしているのだ。

 どのような力が作用したのかはわからない。しかし全く容易くビルの外壁はじ壊されたし、人体は潰された。

 あんな力を相手にしては、防具など飾りにしかならないだろう。それどころか、

「防具は重い。そんなものを身に着けていては機動力が下がり、かえっていいまとになる。――それでも構わないのなら、私が支援部隊に伝えて支給させるが」

 筧の言葉に、いえ、と青年は慌てて首を振って、もとの姿勢に戻った。


 と、今度は別の人物が発言する。口を開いた少年は、しかし筧ではなく正面に座る相葉に声をかけてきた。

「やあ、君は相葉・瀬音、だったな」


 名を呼ばれ、相葉は少年の顔をよく見る。見覚えは――ある。相葉が久坂らに拘束されていたとき、取調室のような部屋に久坂とともにいた少年だ。そういえば結局今に至るまで名を知らない。

 名乗っていない覚えはあったのだろう、少年は軽く肩をすくめた。

「俺は長島ながしまゆずるだ。今更だけどさ――お互い、頑張ろうぜ」


 頑張る。それはどのような意味を含んでいるのだろう。彼と自分とは異なる意味かもしれないとは思いながら、相葉は頷きを返す。それを言いたかっただけのようで少年はそれきり口をつぐみ、続いて口を開く者はいない。


 再び訪れる沈黙――だが、今度はすぐに破られた。

 運転席からの通信。それを受けた筧は頷き、ようやくその双眸を開いた。


「――全員、聞いたな。残り五分で現地に到着する。全員が下車し、輸送トラックが戦闘圏外に出るのを待って作戦を開始する。戦闘開始まで今からおよそ、八分だ。通信機に不調のある者は?」

 見回す。誰の手も上がらないことに頷き、筧は左腕、その手首に巻かれた時計を出す。

「では時計を合わせる。いいな? 五、四」


 三、二、一。

 支給品のそれを合わせて、よし、と筧は号令する。


「――全員、戦闘態勢」

 ざ、という音をそろえて、新兵も熟練兵も一様に銃を持ち上げ、安全装置を解除する。それをしないのは、命じていながらそもそも銃器を装備していない筧だけだ。

 全員の準備が整うのを確認して、筧はひとつ頷いた。


「では――総員、健闘を祈る」


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