第9話 初めての王都
門をくぐり抜けると、視界いっぱいに極彩色の光景が飛び込んできた。
「うわあああ、すごーいっ!」
隣でルアが瞳をキラキラさせて声を上げる。
行き交う人々の熱気、通りに並ぶ露店の数、鼻をくすぐる香ばしい匂い。
「……ああ、すごい活気だね」
ルアに同意しながら、自分の口元も自然に緩んでしまうのを感じた。
これが、ダークロの世界の日常だ。ゲーム画面越しでは味わえなかった熱気が、肌に直接伝わってくる。
「どうするどうする?ちょっと見たくない!?」
何にせよ都市区を抜けなければならないので、通りすがりに焼き鳥のようなものを買いながら歩いた。中央にある広場、ギルドらしき建物や教会、武器屋やよくわからない店もたくさんある。
都市区を渡りきったところで、少し低い門が見えた。こちらの入口では憲兵がしっかり機能しているようで、素通りしていく人と声をかけられている業者らしき人が分かれている。
「門に魔法がかかっていてね、居住している人は判別されて素通り、そうじゃない人は憲兵に通行許可を貰わなければならないんだよ」
(なるほど、魔法でオートロックが成立しているわけか)
スルギの案内で憲兵も特に問題なく通り抜けると、打って変わって静かな雰囲気の広い空間が現れた。公園のような広場や大きな屋敷がいくつも建っている。
「あそこの屋敷だよ、行こう」
案内されたスルギの屋敷は非常に大きく、入口門付近に近づくと執事のような人が出迎えた。
「坊っちゃんおかえりなさい。お連れの皆様ですね。ようこそお越しを。お母様がいらっしゃいますので、ぜひ中広間へお越しください」
家に入ると、見たことのない様式の装飾が随所に施された、ザ・屋敷という感じだった。
キョロキョロしていると、すぐに階段上から女性が現れた。
「スルギ、おかえりなさい。お友達ね。スルギの母です。名前はなんていうの?」
「初めまして、リツと言います。スルギさんとは段超え試練をご一緒させていただきました」
「ルアって言います、よろしくお願いします」
「ふふっ、礼儀正しいわね。まずは疲れているでしょう。とにかくお風呂にでも入って、それから食事にしましょう」
押し込まれるように全員浴室に案内された。男女は?と思ったが、更衣室は別で、中は同じ空間だが天井から中央に分厚い布が引かれており、反対側は見えないように仕切られていた。
「母様、おしゃべりなんだよね……礼儀とかも全然気にしないのでおかまいなく」
スルギの母親はゲームでは特にフォーカスされていなかったので、こんな感じだったんだと驚いたが、異世界でもどこでも母親は母親だな、と身も心も温かい気持ちになった。
*
風呂から上がると、ルアが出てくるまでの間、スルギの母親といくつかの話をした。
騎士団に会いたいことを伝えると、ハナが行っている詰め所があるらしいが、ハナもまだ帰っておらず、今行っても通してもらえないだろうということで、スルギの父親に話をつけてもらうのが良さそうという話になった。ちなみに、スルギの妹2人はいまは学校で不在とのことだった。
話の途中でルアも戻ってきたため食事を始めたが、ルアもスルギの母親にとても懐いていた。
夜まではスルギの父親も戻らないため、時間があるということで街の散策に向かうことにした。
*
まず探索者ギルドに行ってみたいという意見は3人とも一致していた。
ワクワクして扉を開けると、イメージ通りの受付と掲示板がある。ただ、マンガで見てきたような武器を持ったたくさんの人がいるというイメージは外れた。奥のテーブルに1組いるだけで、思った以上に閑散としていた。
「全然人がいないね」
「かなり日に寄るみたいだよ」
(市役所みたいなものだと考えるとそうか)
一通り説明を聞いたが、ほとんどゲームで聞いた通りだった。まずは無色から、ということで受付でネームタグをもらいながら、ゲームで何十回も繰り返したこの流れを、今は現実としてやっているという感慨があった。
その後、商業ギルドにも顔を出すことを勧められ、ギルドを出ようとした、その時だった。
バンッッ!!
大きな音を立てて、慌てた様子の探索者が1人入ってきた。髪も服も乱れたままで、ゼエゼエ言いながら受付に駆け寄る。
「ハイドアウトでしくじった。フープルがドラムと同居してやがった。緊急要請を頼む」
見覚えのあるその男は、道の途中ですれ違った戦士の1人だった。
奥のバーのようなところで飲んでいた大柄の男が、ひときわ大きい声で訪ねた。
「お前、ダンか!フープルだと?他のメンバーはどうなった?」
ダンと呼ばれた戦士の男は覚悟してきたように言う。
「ああ、ビルノードン……ゼシィーが飛ばされて、ガンドとロイは……ダメだと思う。ドリーとレイアは……どうなっているかわからない。その時点で援軍を呼びにきた。頼む……」
ダンと呼ばれた男は、奥のテーブルのメンバーとせわしなく話すと、どうやら折り合いがついた様子だった。
出入り口で呆然と様子を見ていた3人の方に向かって、ビルノードンと呼ばれた男が大きな声で声をかけ、近づいてきた。
「おい坊主ども。俺はビルノードンという、微色の探索者だ。今からこいつらの仲間が生きているかの『救助探索』に行く、『討伐』ではない。もし誰かが生きていて救助できるとなっても、戦闘しながら運ぶことまで考えると人手が欲しい。ただ、見ての通り俺たちのチームは非番でな。チームメンバーが今日は別件で全員揃わない。そこで、お前らに『荷運び』の依頼を出すから手伝ってくれないか。無色なのはわかっているから、戦闘には全く参加しなくていい。離れたところで待っていて、いざとなったら運ぶのを手伝う、保険だ」
「ちなみに、緊急要請は報酬がデカい。内陸階級トップの深紅チームのチーム積立の半分だからな。合計1000万ベルク以上は確定で、いくらだったとしても2割をやろう」
(メインシナリオにはこんな話なかったから恐らくランダムクエストだ……フープルもドラムもゲーム内では初期に出てくるザコキャラ。どちらも動きは鈍いし、転移や罠の見切りも難しくない。それに対して200万ベルクは間違いなく大金だ。運がいい)
スルギとルアが頷くのも見て、ビルノードンに向き直った。
「やります。できる範囲の手伝いをします」
「よし、よく言った。それでは向かうとしよう」
王都への高揚と大金への欲が、「深紅」すら壊滅させた魔獣の脅威を、リツの頭から都合よく締め出していた。
ピコン、とシステム音が鳴り響いた。
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メインストーリー達成率:6%
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毎日21時更新です。次話もよろしくお願いします。




