第6話 段超え試練
キィーーーン
見通せない暗闇の中で、迫る刃の音。
どこから向かってきているかわからないが、もし、自分に向かってきていたら受けられない。
ジジジ……
耳の奥で小さな音が鳴り、左側に気配を感じた気がした。
当てずっぽうに右前方に飛び出し、そのまま倒れ込む。
その瞬間だった。
ギィィィン
「うおぉぉぉ」
スルギの声が響く。
ゴンッ。
バッと振り返ると、浮遊光に照らされた空間に、真っ二つにされた刃コウモリと、刀を持って肩を上下させているスルギが立っていた。
キリ分かれた刃コウモリが落ちているのは、リツが飛び込んだ方向とは逆側だった。
(……逆に飛んでいたら、首が落ちていた)
少し目を流すと、もう一匹の刃コウモリは矢が刺さって落ちている。
「ハァ……良かった。詰め寄りのおかげで間に合った」
「あ、ありがとう……死ぬかと思った」
「大丈夫!?」
ルアが駆け寄ってきて、浮遊光を近づけながら身体を確認する。
「良かった……怪我はないみたい」
「ごめん、完全に冷静じゃなくなってた」
「うん……1人で戦い始めたから、危なかった」
少し息が整ってくると、ドッと身体が重くなるのを感じた。自分がどれだけ興奮状態にあったか、ようやく分かった。
(初めての戦闘。ただのザコ敵でも、生死がかかった戦いだったんだ)
(……さっきの音は何だったんだろう。本当に逆側に飛んでいたら危なかった。第六感でも働くようになったんだろうか。それとも——)
スルギがそれに気づいて確認してきた。
「改めて確認しよう。魔獣が出てきたら、できれば優先して体勢を整える。魔獣に先に気づかれた場合は、リツが一時的に受けるか回避する。時間があればスルギが詰め寄りで受ける。この流れを徹底しよう」
スルギが落ち着いた口調で続けた。
「戦闘の前衛は僕が立つ。リツは集中をできる限り常時、かつ広範囲に展開しながら戦闘のサポート。ルアは浮遊光を展開しつつ、状況によって発火で応戦。リツ、大丈夫そう?」
深呼吸をして、短剣を拾い上げた。
「大丈夫。任せて」
一行は再度歩き始めた。
*
その後は、スライム、角ウサギ、刃コウモリ、布ゴブリン、デロデロ、ワタグモといった初期魔獣が次々と現れたが、取り決めた戦い方を徹底すると、大きな危険もなく進むことができた。
(デロデロはスライムの亜種のような液状魔獣。ワタグモはふわふわの白い綿に6本足が生えた見た目で、全く害がない——なので見つけてもスルーだ。布ゴブリンはゴブリンの中でも布を巻き付けただけの最弱個体で、強くなると装備が強化されて賢くなっていくらしい)
ゴブリンとの戦いは「初めての人型魔獣との戦い」だったため、躊躇して戦えなくなるのではないかと危惧していた。だが、矢を射ることも短剣で突き刺すことも、「少し気持ちが悪いな」という程度の感覚で、特に躊躇することはなかった。
最初の刃コウモリとの戦いで「やらなかったらやられる」という感覚が体に刻まれたのと、マンガやアニメで散々見てきた展開のせいで、ある程度の気持ちの準備ができていたのだろう。
むしろ、実際の生物は心臓を突き刺しても即死せず、最後の渾身の一撃を放とうと動く魔獣もいて、「殺し切るまでは気を抜いてはいけない」ということは真なのだと実感した。
*
魔窟内には人工的な宝箱のようなものはない。アイテムの素材になるものを拾い、魔獣が持っているものを奪う。それだけだ。ガド山魔窟は初期魔窟のため大した収穫もないまま、最奥の行き止まりに到着した。
薄っすらと霧が出ている裂け目がある。
「あれが識異点か」
達成感のこもった声でスルギが言った。
「ようやくか……特に問題はなかったけど、戦闘を十数回こなすと相当疲れるね」
ふぅ……と一息つこうとした瞬間、ルアが動いた。
「すごいね、どうなってるんだろう」
「近づいちゃダメだ!」
リツとスルギが同時に言った瞬間、裂け目がパッと光り、周りの景色が変わった。
「あぁ……ごめん……」
ルアが申し訳なさそうな顔でこちらを見ている。
「……まあ、どうせすぐに入る予定だったんだからいいんだけど」
「近づいた時点で転移するから、次から気をつけよう」
スルギがそう言うのを聞きながら、すぐに切り替えて周囲に集中を展開した。
周囲は白いモヤに囲まれている。気配はない。中央に、巨大な岩がひとつある。
「あれが識異点魔獣だろうね」
「そうだね」
「岩の魔獣か。弓矢は通らなそうだが……スルギの硬斬りなら切れるんじゃないかな」
「一度斬ってみようか」
スルギが近づいていくと、ゆっくりと岩が逃げるように転がり始めた。ゴロゴロと転がっているだけでスピードはない。追いかけていって、スルギが思い切り刀を振り下ろす。
ドンッ。
想像とは違う鈍い音がしたかと思うと、岩は斬れることなくボールのように弾んで、囲んでいるモヤの壁に向かって飛んでいった。
「なんか違う!ただの回転岩じゃない!」
一瞬モヤの壁に接着したかと思うと、勢いをつけてこちらに飛んできた。ビリヤードのような状態だ。
(……なんだこれ。斬れなくて、弾む。岩じゃない。接着して——ゴムか?)
回避しながら頭を回した。
幸い避けることはできるが、連続して飛んでくるため、長期戦は厳しい。
スルギが叫ぶ。
「……回転ゴム岩だ!とりあえず避けて体勢を立て直そう!」
「ゴムなら火に弱いはず!ルア!発火の温度を上げてぶつけてみて欲しい!」
(ゴムは高温で溶ける。確か、暇潰しに見ていた動画で見た記憶がある)
「わかった、やってみる!」
発火は集中して時間をかければ、温度調整が可能だ。
リツが回転ゴム岩に近づいてヘイトを集めて飛ぶ方向をコントロールし、スルギはルアのそばで待機。ルアが集中するという構図になった。
「準備できた、飛ばしてみる!」
「うん、壁に接着するタイミングを狙って!」
狙い通り、壁に接着したタイミングの回転ゴム岩に、ルアの炎が当たると、回転ゴム岩は炎に包まれ、もくもくと煙を出し始めた。
「あっつい!!」
ただ、回転ゴム岩は止まらず、地面を転がり続けるため、すぐに炎は消えてしまった。
「だめだ!ダメージはあるだろうけど、もっと強くないと火が消えてしまう!」
「私も何発もできるかはわからないよ!どうしよう!」
黒い煙を上げながら転がってくる岩を避け続けながら、頭を動かした。
(発火を当て続けることはできない。一発の威力を上げるか、別の手を使うか……)
思考が止まりかけたとき、スルギが叫んだ。
「いい方法がある!リツ、もう少し頑張ってくれ!」
スルギがルアに何かを指示しているが、黒い煙を出しながら転がってくる回転ゴム岩を回避しながら、リツも疲労の限界に焦っていた。
「どうしたらいい!」
「その岩をこっちに向かわせてくれ!」
「わかった!任せるよ!」
リツは方向をコントロールして、スルギの方に岩が飛ぶように回避する。
すぐに振り返ってスルギの方を見ると、刀を構えて待ち構えているのが見えた。
刃が赤く煌々としている。
「おぉぉぉぉぉぉ」
スルギの気合に満ちた声とともに、刀が回転ゴム岩を捉えた。
先ほどとは異なり、ほとんど音がせず、回転ゴム岩は真っ二つに切り分かれ、止まった。
「……なるほど、刀を熱して斬ったのか」
「そう。ハナを参考に、疑似魔剣士ってね」
「なんとかなったぁ……」
全員、肩を上下させながら立っていた。
しばらくして、モヤの壁が裂け目を構築し始めた。周りのモヤが徐々に薄くなっていく。
「これが……戻り穴だね」
スルギとルアは回転ゴム岩の残骸から素材をかき集め、リツはモヤが薄くなっている場所を探索した。各自見つけたものをリツが開いた空間収納にポイポイと入れ、戻り穴に近づく。
来たときと同じように、一瞬光ったかと思うと、景色が元の洞窟に戻っていた。
ピコン、とシステム音が鳴った。
ウィンドウが立ち上がり、【Lv.10】の表示に更新されていた。この世界流に言うと、第一位階への到達。これでようやく、死亡率50%の最弱の駆け出しを脱したのだ。深く息を吐き出すと、これまでにない確かな力が身体の底から湧き上がってくるのを感じた。
スルギとルアも「おぉ」「わぁ」と声を上げている。第一位階を超えたのを感じたのだろう。
「とりあえず洞窟の外まで戻ろう。それからいろいろ確認しよう」
スルギの言葉に頷いて、来た道を戻った。帰りも魔獣が出る可能性はあるが、一層してきたため、リスポーンする間もなかったのか、ほぼ戦闘はなく、洞窟の入口まで戻ることができた。
ピコン、とシステム音が鳴り響いた。
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メインストーリー達成率:4%
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毎日21時更新です。次話もよろしくお願いします。




