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達成率999%のゲーム世界に転生した俺、攻略知識を使うたびにシナリオが崩壊していく〜攻略者の因果律〜  作者: @太郎
初めての魔窟

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第5話 ザコキャラ

ダリオの修行では、魔窟(ダンジョン)についての詳細な座学も組み込まれていた。

ゲーム内では割愛されていたところもあったため、知らないこともあった。

 

大きな括りで言うと、探索者(シーカー)の活動領域は「大陸外」と「大陸内」に分かれる。大陸外とは深淵大陸イデアでの探索を指すが、海を渡る必要があるため、高位階に到達して認印を貰わなければ実行できない。

そのため低レベル帯の探索者(シーカー)たちは、大陸内での探索で経験値を積むことになる。

 

大陸内には『夢見る終わりの創造主(オメガ・デウス)』が現れてから魔獣が集団で発生するようになっており、エリアの種類がいくつかに分けられている。最も巨大なものが『遺跡(ルインズ)』。その他に『集落(ハイドアウト)』や『魔窟(ダンジョン)』などが点在している。

 

中でも魔窟(ダンジョン)の特徴は、最奥に『識異点(ブレイク・ポイント)』と呼ばれる座標の歪みがあることだ。

 

そこに踏み込むと強制的に別の空間に転移させられ、『識異点魔獣(エンフォーサー)』と呼ばれるボスが待っている。これを倒すと識異点が解除され、元の魔窟(ダンジョン)に帰還するための「戻り穴」が一定時間開く。

 

(ゲームでは「識異点魔獣(エンフォーサー)を倒して帰還する」という流れだけだったが、転移先が深淵大陸イデアの一部だと噂されているのは知らなかったな……)

 

転移先では、濃い霧に囲まれた空間に出る。識異点魔獣(エンフォーサー)以外が出現した事例はこれまで一度もないため、周囲の探索自体は安全とされている。ただし、霧が晴れると同時に「戻り穴」も閉じてしまうため、戦利品の収集は手早く済ませる必要がある。

 

「戻り穴から戻らずに、そのまま深淵大陸の開拓を試みたパーティが過去に何組かいたそうですが、その人たちは?」

 

「全員、消息不明だ」

 

ダリオが短く、冷徹な事実だけを答えた。

 

「絶対に取り残されるなよ。いいな」

 

 

準備を整えて村の出口に向かうと、ダリオが待っていた。

 

「無事に帰ってこい」

 

そう言って、ルアの頭に大きな手を乗せた。ルアは少しだけ目を細めて、力強く頷いた。

 

村を出て、未知のフィールドへ足を踏み出す。

改めて冒険に踏み出すのだと思うと、期待と不安が入り混じった感覚が込み上げてくる。ただ、一歩間違えれば死と隣り合わせという、まだ現実感のない感じだが。

 

村の郊外で、待ち合わせていたハナとスルギが合流した。

 

「リツ、ルア、改めてよろしくね。王都では周りが年上ばかりだから、同い年くらいがいると嬉しいよ」

 

スルギが屈託なく笑いながら言った。

 

「ダリオさんが言ってたけど、鬼の一族ってなんなの?」

 

ルアがスルギに尋ねる。

 

「僕たちの一族には『鬼の血』が流れているんだよ。血統因子で、各自何かしら鬼の力が現れる。特殊な一族だから軍事で重宝されることが多くてね。大体十歳ころには力が発現することが多いんだけど、僕はまだで——だけど、傍系の次男だから比較的自由って感じ」

 

スルギが、前を歩くハナの背中を指差して続けた。

 

「ハナが背負っている木箱、見える? 中に七本の刀が入っていてね。ハナは侍じゃなく、それを魔法で操って戦う魔剣士なんだ。それを可能にしているのが鬼の力で、その時のオーラの色が青いから『蒼鬼(あおおに)』って呼ばれてる」

 

(ハナはこの世界でも指折りの実力者だ。ゲームでは一度だけ戦闘シーンが差し込まれていたが、ハチャメチャにかっこよかった。生で見たい)

 

道中で、互いのスキルや役割について話し合った。

 

「スルギは何が使えるの?」

 

「『詰め寄り』と『硬斬り(かたぎり)』かな」

 

「私は発火と浮遊光が使えるのと、拳術と棒術!魔法より得意かも」

 

「……そうなんだ、頼もしいね」

 

魔法使いらしからぬルアの宣言に、スルギが少し引き気味に笑った。

彼女は今日もタンクトップにショートパンツという軽装で、魔法使いというより武闘家のようなオーラを放っている。

 

「リツは?」

 

「ちょっと特殊な魔法が使えるんだ」

 

そう言いながら、意識を集中させ、右手を虚空に伸ばす。空中に青白いグリッド線が走り、空間に小さな裂け目が生じた。手に持っていた予備の矢筒を、その裂け目の中へと放り込む。

 

「え!?」

 

スルギが目を丸くした。

 

「空間魔法が使えてね。まだ空間収納しかできないから、戦闘では役に立たないと思うけど」

 

ルアが目を輝かせて身を乗り出した。

 

「それいいよねえ、羨ましい!ルアより魔法使いじゃん!」

 

(修行中にステータスを確認したら、選んだ3つのチートスキルの『使用不可』が外れていた。チュートリアルが終わったということだろう。だが、試しに空間収納以外の魔法を発動させようとした瞬間、身体から一気に熱を奪われるような悍ましい悪寒に襲われた。まだ今の俺の魔力では使えないということらしい……)

 

「へぇ〜空間魔法かぁ」

 

ハナがのんびりと口を挟んできた。

 

「そんなの見たことも聞いたこともないけどねぇ。珍しいもんだ」

 

それだけ言うと、彼女はまた気だるげに前を向いた。

 

 

その後も、戦闘陣形や王都での暮らしなどを話しているうちに、目的の場所へ到達した。

 

険しい山肌にぽっかりと開いた穴。そこから、不自然なほど白い霧が、生き物のように這い出している。

 

「……霧の色は白。ダリオさんの座学通り、最低難易度だ。問題ないはずだね」

 

リツは自分に言い聞かせるように呟いた。

 

「スルギ、頑張ってきなね〜。無事を祈ってるよ〜」

 

ハナが自分の頭に巻いていた鉢巻を外し、スルギの額にキュッと結んでやった。

 

「よし、洞窟だから岩の魔物かコウモリあたりが出てくると思うけど、まあ頑張って」

 

(正直、このあたりの敵がどんなだったのか全然覚えていない。スライムやツノウサギは大した動きもなかったが……まともな実戦となると、また感覚が変わるだろうな)

 

「うん、行ってくる」

 

スルギが力強く頷き、三人は、白い霧が立ち込める魔窟(ダンジョン)の闇へと足を踏み入れた。

 

 

一歩中に入ると、外の光は届かない。

ひんやりとした冷気と、土の匂い。ルアが唱えた「浮遊光」という魔法で周囲3メートルくらいまでは見通せるようになった。

 

正に洞窟という感じで、奥の方までは見えないが、5人くらい並んで通れる道がずっと続いていそうだった。

洞窟に入るのは初めてで、普通に怖い。

 

とはいえ、実年齢は上なんだし、ビビっていると思われるのも恥ずかしいので、決めていた斥候という役割を果たすべく、先立って歩き出した。

 

前方に集中しようとすると、「集中」というスキルが発動されているのが分かる。

心が落ち着いて、周りの気配や音に敏感になっている気がする。

 

少し歩いたところで、前方から気配がした。

 

「待って、気配がする」

 

そう言って呼びかけ、短剣に手をかけた瞬間、キィーーーンと音がして、眼の前からギラリと光る物体が飛んできた。

すんでで掲げた短剣にぶつかり、飛んでいたものは軌道を変えて天井に着地した。

 

「刃コウモリだ!」

 

刃コウモリという魔物を思い出すとともにゾッとした。

 

刃コウモリはただのザコキャラである。見た目は、ハネの外側に刃がついており、ハネを広げて飛んでくるだけである。ゲームでは一撃か二撃でサクサク倒せた。

 

ただ、飛んできてわかった。

 

ハネにある刃が、腕などに当たれば冒険は続けられないだろうし、腹に当たれば内臓がこぼれるだろう。そして、首にでも当たれば、即死する。

 

ゾッとして、身体の内側がヒュッと縮こまった感じがした。

やり直せるゲームと違う、今、死が隣り合わせだということを改めて実感する。

 

ドクドクと心臓が早鐘を打ち、武者震いのように足がガクガクと震え、脳内にアドレナリンが噴き出し、リツの合理的な思考は一瞬でパニックに塗り替えられた。

 

(殺してやる……)

 

手に持っていた短剣を投げ捨て、素早く弓矢を構えた。

 

先程の刃コウモリに狙いを定めると、ちょうど刃コウモリがリツに向かって再度飛行を始める。

 

「リツ!戻れ!」

 

スルギが大きな声を出した。

 

ハッとしたが、冷静に判断ができない。

 

ほぼ同時のタイミングで、狙っていた刃コウモリに矢を放つ。

そして、矢が手から離れた直後に、前方から別の音が聞こえてきた。

 

キィーーーン

 

別の鋼の刃の音が、こちらに迫ってきていた。


——死ぬ。

次話は明日21時更新です。よろしくお願いします。

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