第4話 知らなかった世界
「リツ、座れ」
1階に降りると、ダリオが椅子に座って待っていた。
促されるまま向かいに座ると、ダリオが話し始めた。
「ったく……ルアから聞いたぞ。ルアと探索者仲間として一緒に動き、バーサーカー化の解除も目指す意図だったということだな。まったく、紛らわしいやつだな」
(リツのせいなのか……このクソ脳筋仁義マンめ)
「まあいい、まず状況を3つ整理するから聞け」
ダリオが指を立てながら続けた。
「1つ目。俺はもともとリオネス王国の騎士だ。そこそこ強い。そして先程説明したが、バーサーカー化のことも治し方も知っている。そのうえで、ルアには『静定石』という感情の昂りを抑える道具を持たせたから当面はバーサーカー化の心配はない」
「2つ目。俺自身はこの村を長く離れることが難しい。妻が懐妊していてな。どうにかしてやりたいが離れられん」
「3つ目。ルアはもともと探索者になるつもりだった。魔女との約束で、魔法の基礎を覚えて今年16歳になったら村を出ることになっていた。だから、お前の申し出はルアにとっても悪い話じゃない」
「ただ、すぐに二人でリオネス王国に向かうことにはOKを出せない。第一位階を超えるまでの死亡率は50%を超えるからだ」
50%。ただの数字ではない。二人に一人が、死ぬ現実の確率だ。
「そこで、だ。第一位階を超えるまでは俺が修行してやる。どうだ?」
「ありがとうございます。ぜひお願いします。ただ——すみません、位階というのは何ですか?」
ダリオが眉をひそめた。
「位階も知らないのか……強さの大凡の基準を表すものだ。位階を上げると解放されるというのか、一気に強くなれる幅が広がる。ただ、何らかの困難を乗り越えないと、位階は上がらない。これを『段超え試練』と言う」
「もしかして、第一位階の段超え試練はダンジョンを一つクリアすることですか?」
「そうだ。知ってるじゃないか。低い位階は決まった試練をクリアすれば超えられる。第一位階ならダンジョンをひとつクリアすればいい。高位レベルになると決まった試練ではなく、『心臓の音』と呼ばれる人それぞれの転機を迎えなければならないもんだがな」
(……なるほど。確かに、レベル10ごとに段超え試練や心臓の音を越えないと、レベルが上がらないシステムだった)
「……わかりました。つまり今の私は、第一位階の手前ということですね」
「そうだ。ヴルドに矢を当てたと言っていただろう。ならばヴルド討伐の経験値が入っているだろうからな、第一位階に上がらない限り、お前たちはこれ以上成長できないだろう」
(ステータスボードには「Lv.9」と表示されている。つまり位階とはレベル10刻みのことか。ウインドウを確認できて、システムにアクセスできているのは自分だけだから、周りにはレベルという概念がなく、代わりに位階という概念で強さを図っているということだろう)
(ダリオの言う、第一位階、つまり、レベル10までの致死率が高いのはゲームでも事実だった。レベル10まではスキルが増えないためだが、このシナリオに進まないとこの情報を教えてくれないから、これで何回やられたことか……)
*
それから、ダリオによる修行が始まった。
修行と言っても、メインは探索者や王国についての基礎知識についての座学と、一般的な武器や魔法の扱い方などだった。
脳筋仁義マンでも、元騎士としての教養はきちんとあるようだ。
ゲームで見知った情報も多かったが、直接武器を触ったり、野営の仕方など、知らないことも多く、正に基礎力がついたと感じた。
中位魔獣が出たことを警戒して、村が見える範囲よりも遠くへ行くことはなかったが、最弱クラスの魔物であるツノウサギやスライムなども練習として戦った。ゲーム内で見た不思議な生物が動いていること、そしてそこに弓矢を射って倒すのに成功することなど、ゲームの世界を体感していることへの興奮感は高まった。
ちなみに、『ダークロ』はオープンワールドゲームだ。
そのため、シナリオが発生する地点に先に行って攻略したり、アイテムを集めることもできるが、順序に合わせて進まないと難易度が合わなくて死にゲーと化す。
そして、死んだら、その言葉のとおり死ぬ。
世界を見て回りたい気持ちにも駆られたが、小さな村で1人行動をすることも難しいし、今の強さ的にもまだどうにもできないため、諦めた。
ルアはといえば——これはゲームでも言及がなかったため、正直驚いた。初めて会ったときの服装とは全く別で、普段はタンクトップにショートパンツという完全に肉体派の格好だった。
「おばあちゃんとの修行の日は魔法使いらしくしないといけなくて」
とのことだが、本人の地は完全に拳闘士だ。
「そこっ!遅いですよリツ!」
ドゴッ、と鈍い音がして、リツは地面に転がった。
(痛ぇ……!なんだこのゴリラ火力!)
ダリオから魔女に対して、何度も魔法使いにわざわざならなくても良いのでは?と打診したそうだが、魔女が頑なに許さなかったとのこと。
ゲーム内だと、初期ステータスはどの職業だろうとそこまで大差がないので、気にしていなかったが、よく考えてみれば確かに魔法使いに似合わず俊敏性が非常に高かったが——こういうことだったのか。設定には忠実だ。
素直で良い子だが、大雑把で好戦的。というのが数日過ごした感想だった。
暇があれば、組み手かゲームなどの勝負事を求められ、組み手はほぼルアが勝つが、勝負事は大体負けるが時々大勝ちするという感じだった。
ステラはあれ以来ずっと黒猫の姿でそばにいるので、リツ以外は黒猫だと思っているのだろう。ルアがステラにめちゃくちゃ懐いていた。ステラの方は懐かれていても無表情のままだが、ルアがマタタビのようなものを振ると、無我夢中で反応していた。思ったよりも猫らしい。
*
2週間ほど経った頃、村に来訪者が現れた。
「ダリオさーん、来ましたよー。忙しいのにわざわざ来ましたよー」
やる気のない声が外から聞こえた。鉢巻を巻いて、刀を腰に下げた女性が手を振っている。
「おぉ!ようやく来たか!待ちわびたぞ!」
「あいつはハナ。現役の王国騎士だ。鬼の一族でなあ、蒼鬼と呼ばれている」
ダリオの後をついていくと、ハナの後ろにもう1人青年がいた。
「はじめましてー、ハナですー。こいつが弟のスルギですー」
青い髪にプレートアーマー、刀を腰に下げた青年が、ひらひらと手を振っている。
「スルギです、よろしく」
人当たりの良さが身の振り方から滲み出ていた。
(スルギのことはよく知っている。「罪の消し方」——そのシナリオで、スルギは取り返しのつかない結末を迎える。ゲームで何度も見てきた光景だ)
今はただ笑顔で手を振っている青年に向かって、同じように挨拶を返した。
ダリオが説明を続ける。
「実はな、中位魔獣の件もあってハナに調査を依頼していたんだが、スルギも段超え試練を目指しているということだし、前衛がいないお前たちのパーティにちょうどいい。ならばパーティとして一緒に段超え試練に臨めばいいのでは、と話していたのだ」
「じゃあ、ついに段超え試練ですか」
「ガド山魔窟の識異点の解除だ。ハナが道を案内する」
今夜23時まで順次公開します。6話以降は毎日21時更新です。




